とんでもない彼女は強盗【第1部】

47 名前:1:2008/04/15(火) 09:37:26.50 ID:8ChvwtkW0
【第二部USJ窃盗事件】
次の日は起きたら後頭部がズキズキ痛んだ。
休みで良かった。ベットでボーっとそんなことを考えていた。
昨日自分で応急処置したガーゼが剥がれている。
やっぱり後頭部の治療は自力では難しい。
しかし病院にいくほどでも無さそうだ。それに病院嫌いだし・・・。
午前中はボケーっとTVを観て過ごした。
そして考えていた。華のことを・・・。
どうするか??慰謝料を請求するか??
答えは既に出ていた「もうええか・・・」である。
電話に出るかな・・・?俺は華に電話を掛けることを考えた。
「もう慰謝料もいらない。この件は忘れてもよい」
そのことを伝えようとしたのだ。
夕方華の携帯に電話をしてみた。
おそらく出ないだろう。そんなことを思っていた。
それならそれで良い。それで終わりにしよう。
48 名前:1:2008/04/15(火) 09:45:31.16 ID:8ChvwtkW0
電話のコール音を聞く。1回2回3回・・・。
やっぱり出ないかぁ~。そう考えていた矢先!!
「はい・・・」昨日のガキの声だ!
「え・・・と。昨日鉄パイプで頭割られた男やけど」
なんか情けない自己紹介だと思いつつ話かけた。
「うん・・・」華は小さい声で応える。
「もうお前から慰謝料も請求せんし、安心してくれ」
華は無言だ。
「それと学校なんてところは行かんでええと思う。
でも行ったら思い出はできる。年とってからなかなかええもんやで」
相談もされてないのに暴走する俺。
なんでそんな事を話したのだろう・・・。
おっさんになった証拠だ。
すると華は意外に素直に
「ぁりがとぅ・・・考えてみる」と返事したのだ。
「それだけ言いたかっただけ。ほんじゃ」
そう言って電話を切った。
この時はこの件が全て終わり、華のこともいづれ忘れると思っていた。
事実その後は忘れていった。傷の手当てをする度に思い出す程度だった。
傷が癒え手当ての必要が無くなると同時に華のことは完全に忘れた。
しかし・・・1ヶ月後、なんと突然華から電話が掛かってきたのだ!



52 名前:1:2008/04/15(火) 09:51:47.35 ID:8ChvwtkW0
華の番号は残していた。
というか消すのが面倒で残っていたのだ。
日曜日に洗い物をしていたらら着信音が鳴る。
着信番号をみると「はな」と表示されていた。
「はな・・・??はて??」と一瞬思い出せずにいた。
それくらい華のことは忘れていたのだ。
「はな・・・はな・・・ああアイツか!!」思わず手が
後頭部を摩る。もう痛みも傷も完全に消えてた。
しかし・・・あの華がなんの用事だろう??
恐る恐る電話に出てみる・・・。
「もしもし??」
「・・・・華やけど・・・覚えてない?」
この声は間違いなくあの時のガキ。
「いや。覚えてるで」
「ぅん・・・。」
沈黙・・・・。
俺は聞いてみた「どしたん?なんで電話掛けてきたのや?」
「ぅん・・・」華は少し緊張している様子。
「傷はどんな調子??」
意外な言葉が飛んできた!!少し驚く
「ああ~。完璧に治ったわ。なんや心配してたんか?」
「ぅん・・・」
俺は正直少し可愛いなぁ~っと思った。
兄貴2人しか兄弟にいない俺は
妹がいたらきっとこんな感じなのだろうと思っていた。
その矢先!突然華が聞いてきた。
「ぉ前・・・名前なんてぃぅのん?」



54 名前:1:2008/04/15(火) 09:58:56.60 ID:8ChvwtkW0
絶句した。中学生が29歳に対してお前・・・。
その前に加害者が被害者に対してお前・・・。
「俺は1っていう・・・。あのな、あんまりお前って言葉は
やめといたほうがいいぞ!俺一応年上やしな・・・」
なるべく諭す感じで言ってみた。
最近の中学生はこんなことも分からないほどアホなのか??
「ごめん・・・」
華は意外と素直に謝る。これが俺に強盗傷害をしたガキとは思えない。
「そんで。今日はなんで電話してきたんや?」
それが1番知りたいところだ。


56 名前:1:2008/04/15(火) 10:05:55.01 ID:8ChvwtkW0
華はもじもじしながら話し出す。
「・・・ぅん・・・えとなぁ。1ってUSJって行ったことある?」
1・・・。呼び捨てかぁ。それはもはや言うまい。
しかしUSJ!!??なんでUSJ!!??
俺は答える。
「USJは3回くらい行ったことあんで」
華は言う。
「あんなぁ。うちUSJ行ったことないねん。・・・ぇぇなぁ~1は」
これは!?これはもしかして!?
俺をUSJに誘っているのか?
1ヶ月前に鉄パイプで頭をカチ割り
さらに盗みをはたらこうと考えた相手を誘っているのか!?
俺は聞いてみた。
「なんや華。もしかしてお前USJに行きたいんか?」
「うんっ!!」
この時初めて華の明るい声を聞いた。
可愛いと思った(子供としてね)



59 名前:1:2008/04/15(火) 10:11:58.48 ID:8ChvwtkW0
俺は更に聞いてみた。
「もしかしてやで。もしかしてやけど・・・俺を誘ってんの??」
華は少し間をおいて答えた。
「ぉわびしたぃしぃ。。。だからUSJ・・・」
後頭部殴打のお詫びがUSJ・・・。
「まぁ中学生なんてそんなもんか?」
そう考えていた。
俺は言った。
「んじゃ一緒に行こか?USJ」
華はこれ以上にないといった嬉しそうな声で
「うんっ!!」と答えた。
約束は2週間後の日曜日にした。



62 名前:1:2008/04/15(火) 10:18:10.33 ID:8ChvwtkW0
その日俺は財布に金が無かったので近所のコンビニで
現金を下ろした。5万円。
華は俺に対するお詫びと言ったが、まさか中学生に出してもらう
ワケにはいかない。
USJの最寄り駅で昼12時に待ち合わせ。
本当にくるのか?少し不安だった。
改札を出ると華はいた。
正直顔は忘れかけていたが、そこにいたのは間違い無く1ヶ月半前に
俺を襲撃した女だった。
しかし雰囲気は全然違っていた。
着てる服装はまさに厨房の女の子。
ドルガバのシャツにスパッツ。
ラインストーンが入った靴・・・。子供だった。
一緒に歩くのが少し恥ずかしかった。



64 名前:1:2008/04/15(火) 10:24:59.85 ID:8ChvwtkW0
でもその子供っぽい服装に安心したのも事実だ。
普通の子なんだ。
そしてこういうカッコしていれば普通に中学生として十分可愛い。
俺は声を掛けた。
「久しぶりやな!」
華は少し気まづいのか恥ずかしいのか目を合わせずに
「ぅん・・・」と答えた。
俺は「飯食った?」と聞いてみた。
華は「食べてへん・・・」と答えた。
「飯食べようか?」しかし華は
「え~~!!早くUSJ入りたい!!遊んでから食べよ!!なっ?なっ?」
と急かしてきた。
本当に妹ができたみたいで可愛かった。
「OK!んじゃ行こうかぁ~」
そういって入場ゲートに歩いて行った。



66 名前:1:2008/04/15(火) 10:32:15.34 ID:8ChvwtkW0
入場券は当然俺が買った。
本来なら華が俺に対するお詫びのはずだったが中学生だし良い。
華は「ぁりがとぉ~。めっちゃドキドキすんな~。ジュラシックパーク行こなっ♪」
などとはしゃいでいる。
なんかそれでいいような気がした。
久しぶりのUSJは客が少なかった。
昔来たときはもっと活気があったような気がしたが・・・。
「ET」「バックトゥザフューチャー」「バックドラフト」
そして華待望の「ジュラシックパーク」「ジョーズ」
全て華はリアルタイムで観ていないんだろなぁ~。
と考えながら俺ははしゃぐ華を眺めていた。
このUSJで初めて「はな」の字を教えてもらった。
「華」という名前は気の強い彼女にピッタリの名前だと思った。



67 名前:1:2008/04/15(火) 10:36:44.80 ID:8ChvwtkW0
華はまるで子供のように喜んだ。
観ているこっちまでなんだか幸せになる。
なんか分からない「角みたいなのが生えたカチューシャ」を欲しそうにしていた。
買ってあげると喜んでつけていた。
ウッディーウッドペッカーの気ぐるみを発見すると
走って行き嬉しそうに抱きついていた。
やっぱりまだ子供なんだな。
しかし・・・
そんな可愛い女では無かったのだ!華は・・・。
1ヶ月半前、俺を鉄パイプで殴打し、強盗を企てた本性は
いま静かに眠っているだけだった・・・。



75 名前:1:2008/04/15(火) 10:43:36.33 ID:8ChvwtkW0
アイスを買ってあげ、お土産を買ってあげ結局お詫びどころか
俺が全部おごってあげたこの日。
それはそれで全然良かったのだ。
その度に華は喜び「ありがとぉ~。めっちゃ嬉しいわぁ~」と
笑顔を輝かせていた。
最後にレストランでご飯を食べ別れの時が来た。
駅の改札。華に切符を買ってあげ見送る。
しかし俺はこの時ほんの小さな違和感を感じていた。
券売機での違和感・・・。
華はいつまでも笑顔で「ありがとなぁ~」と手を振っている。
俺も手を振る。楽しかったなぁ。
この日1日の正直な感想だ。
もう2度と華と会うこともないだろう・・・。
最初はとんでもないガキだと思っていたけど、素直で可愛いやつだった。
きっと家庭不和が原因で寂しかったのかな?
いつか幸せになれるといいな!
帰りの電車に揺られながらそんな事を思っていた。
しかしそんな俺の思いは華にことごとく打ち砕かれる・・・。



103 名前:1:2008/04/15(火) 11:23:30.17 ID:8ChvwtkW0
帰宅後
どう考えても財布の残金が少ない・・・。
華と遊んだ金は2万5千円程度。
どんなに多く見積もっても3万。
それが残金5千円・・・・。
どういうことだ。しばらく考える。
答えは1つしかなかった。
華に抜かれたのだ。



111 名前:1:2008/04/15(火) 11:29:13.34 ID:8ChvwtkW0
なぜだ?そしていつだ?考えを張り巡らせる。
レストラン・・・。俺がトイレに立った時か!
俺は通常トートバックに財布を入れている。
そのバックは・・・席に置きっぱなしだった・・・。
愕然とした。
金の問題というより今日の華との楽しかった1日を思い出すと。
悲しくなる。
華の笑顔を思い出すと裏切られた切なさが沸いてくる。
しかもなぜこんなにすぐにバレる窃盗を・・・??
どう考えても華の思考は理解できなかった。
「もうどうでもいいや」という思いと
「なぜこんなことをしたのか?」という思いが交錯する。
電話して確認するか?
いや・・・もう繋がりは断ったほうがいい。
あの女は本物の犯罪者なんだ・・・。
双方の思いが存在した。



114 名前:1:2008/04/15(火) 11:33:51.75 ID:8ChvwtkW0
1度だけ・・・1度だけ・・・電話してみよう。
きっと出ないだろう・・・。
今さっき金を盗んだ男の電話に出るわけがない。
常識的に考えて着信拒否だろう。
それでいい。それがいい。
出なければ出ないで全て終わりにしよう。
そして万一出た場合・・・。追求してみよう。
電話を掛ける手が震える。
異常に喉が渇く。俺はビールを一缶空けてから電話した。
緊張する・・・。
コール音が鳴る。意外な事に着信拒否はしていない模様。
しかしコール音が鳴るばかり。華は電話に出ない。
終わったな・・・。裏切られて・・・。
俺は電話を切った。



116 名前:1:2008/04/15(火) 11:38:52.76 ID:8ChvwtkW0
俺はボーっとベットに寝て天井を見ていた。
終わったと思ったがさすがに切なかった。
頭を割られ、挙句に財布の金を盗まれた・・・。
最悪だな。俺は・・・。
少し笑えてきた。
目を瞑ってもうこのまま寝てしまいたい・・・。
そう思った時。携帯の着信音が鳴った。
相手は・・・そう。なんと華だった。
驚きながらも恐る恐る電話にでる。
「もしもし・・・」ヤバい声がかすれてる。
緊張していた。そんな俺の思いとは裏腹に電話を掛けてきた
華の声は意外なものだった。



121 名前:1:2008/04/15(火) 11:44:06.52 ID:8ChvwtkW0
「やほ~♪さっき電話くれたやろ~?ごめんなぁ。お風呂入ってたわぁ(笑」
「!!!!!!????」え・・・?
なにこのテンション??
俺は驚いた。電話が来ただけでも相当驚いたが
華は悪びれている様子が微塵もない。
俺は絶句した。
「今日めっちゃ楽しかったなぁ~。意外にバックドラフトが良かったなぁ」
「・・・・・・・・・・・・」
「お土産に買って貰ったチョコ食べたで~。めっちゃおいしいでぇ~(笑」
え・・・。なんで?なんでそんなことが言えるの??
本当に理解ができなかった。



124 名前:1:2008/04/15(火) 11:47:27.81 ID:8ChvwtkW0
もしかして俺の勘違い??財布には5万も入ってなかった??
しかし・・・しかし・・・。
俺は財布に入っていたATMの利用明細を見た。
確かに5万引き出されている・・・。
そしてそんなに使っていない。
そんな困惑する俺を尻目にハイテンションの華は
「また連れていってなぁ~。今度は朝からいこうなぁ~(笑」
「・・・・・・・・・」
聞かなければ。確認しなければ。
でもどうやって切り出せばいいんだろ??



130 名前:1:2008/04/15(火) 11:53:27.14 ID:8ChvwtkW0
あまりに黙っている俺を不振に思ったのか華は聞いてきた。
「どしたん?元気ないやん?」
あるわけないやろっ!!
しかし聞かないワケにはいかない。
金の問題じゃなく、本当に盗みを犯してこの態度なら
この女は異常だ!根本が腐っている。
俺は華の真意が知りたかった。
「あのな・・・華・・・。気を悪くせんと聞いてな」
「どしたの?」
華はうろたえる様子が全く無い。
「帰ってきて財布の中身確認したんよ・・・そしたらな・・・・」
「・・・・・・」
「使ってもないはずの金が無くなってんねん。」
華が急に黙り込む・・・。
「華が盗んだんと・・・ちゃうよな??」
俺は勢いにまかせ核心をついた。



136 名前:1:2008/04/15(火) 11:58:41.76 ID:8ChvwtkW0
「違うと言ってくれ!」俺は甘い。甘いかもしれないが
そう心の中で願っていた。
今日の無邪気な華の笑顔を思い出すと
華を信じたくなってしまったのだ。
「・・・・・・・・・」
黙り込む華
「違うかったら俺謝る。だから本当のこと教えて欲しいねん」
すると華がおずおずと話出す・・・。
「ぅち・・・」
「ぅち・・・・・・・」
「ぉ金・・・とった」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
沈黙・・・。



140 名前:1:2008/04/15(火) 12:03:31.17 ID:8ChvwtkW0
2回目か・・・。この女にやられるのは・・・。
俺は本当に甘い。大甘いだ。
公園で貸しえてくれたハンカチも
今日も無邪気な顔も
全部嘘か・・・。
最近のガキなんてこんなもんか。
人に詫びる気持ちどころか、許した人間に対してこんな仕打ちをするのか。
もういい。これ以上このガキに関わるのはごめんだ。
俺は切り出した。
「そうか・・・その金はやる・・・。もういいわ。ほんじゃ」
華は消えそうな声で言った。
「ごめん・・・ごめん・・・」



144 名前:1:2008/04/15(火) 12:09:30.96 ID:8ChvwtkW0
俺は言った
「いや・・・もうええねん。マジでお前と関わりたくなくなってん」
華は黙り込む
「ほんじゃ。電話切るわ」
その時!華が突然大きな声で
「待って!1待って!切らんとって」
「なんでや?」
華の思考回路がわからない。
被害者の俺が終結させようとしているのに
加害者の華がそれを阻止する。
華は言った。
「ぉ金返したぃねん・・・。ほんまに・・・ごめん」
俺は返す刀で
「いらん。やる」
すると華は電話口ですすり泣きだした。
理解不能。
なぜそんなにあっさり返すのなら最初から盗まなければよいのだ。



150 名前:1:2008/04/15(火) 12:16:09.46 ID:8ChvwtkW0
「華ひとつ聞いてええか??」
「ぅぐ・・グスグス・・・ぅん」
「盗んだ金でなにが欲しかったん?」
「ぅぐ・・・DS・・・」
アングリ・・・。ゲーム機かよ。
華は言います。
「明日の夜・・・9時・・・グス・・あの公園で待っとく・・グス」
「・・・・・・・・」
「ぉかね・・返したぃねん」
「・・・まだ使い込んでないんか?」
「・・・ぅん・・グス・・」
「約束は・・・できん。行く約束は・・・せん」
「待って・・・グス・・る・・から」
電話を切りました。
あの涙は嘘泣きなのか?マジ泣きなのか?
俺には分からなかった。



160 名前:1:2008/04/15(火) 12:22:15.81 ID:8ChvwtkW0
会社では仕事が手に付かなかった。
行くべきか?行かざるべきか?
金の問題で無い。
正直言うと情けない事に
昨日の涙は嘘泣きに思えなかった・・・。
更にUSJでの笑顔も・・・。
しかし・・・しかしだ。
俺の今まで生きてきた良識ではその相手から
金を盗むなんて考えられない。
しかもバレバレの方法で。
夕方には決意が固まっていた。もう1回会おう。
どんな考えを持ち、どんな思いを持って生きている人間なのか?
子供といっても14歳。情もあれば多少の人生観もあるはず。
それを確かめてみたい・・・。
俺はその日無理やり残業し時間を潰し
夜9時。華の待つ公園に行った。



167 名前:1:2008/04/15(火) 12:28:21.27 ID:8ChvwtkW0
公園に到着すると華はこの間のベンチにポツンと座っていた。
下を向いて寂しそうな姿だった。
この辺は特別治安が良いわけではない。
女の子1人はヤバかったなぁ~。などと考えていた。
事実俺も襲撃された・・・。
この目の前の華に!
俺は近づいて声を掛けた。
「・・・お待たせ」
顔を上げた華。
それは意外にも涙でぐちゃぐちゃに泣き腫らした顔だった。
俺は華の横に座った。結構長い沈黙・・・。
すると華が突然
「ごめん・・・なさぃ・・・」
と言ってクシャクシャになった1万円札と数枚の千円札を差し出してきた。
その手は震えていた。



172 名前:1:2008/04/15(火) 12:36:12.05 ID:8ChvwtkW0
俺はその札束を受け取った。そして聞いた
「DSが欲しかったんやろ?両親に頼むことはできひんかったんか?」
華は無言で首を横に振るだけ。
「あんな華。お前・・・こんな事を繰り返してたら・・・誰からも信用なくなるで
それは分かるか??」
コクンと頷く華。
俺はさらに突っ込んで聞いた。
「DSが欲しいってだけじゃないやろ?華が金盗んだ理由」
俺にはどうしても分からなかった。
あんなに楽しかった後に、その時間を共有した相手から
金を盗む心理が。そしてその後の電話で平気で笑っていたことが。
「ぅち・・・ぅち・・・なぁ」
華が話出す。
「ぅち・・・なんでか分からへんねん・・・。なんでか盗んでしもてん・・・」
「1回目に俺を殴った時もか?」
華は答えた
「ちゃぅ・・・あの時はぉ金が欲しかったねん・・・。
でも今回は・・・自分で分からへんねん・・・。」
そして華は「ごめん・・・ごめん」と呟きながらまた泣き出した。



182 名前:1:2008/04/15(火) 12:45:29.23 ID:8ChvwtkW0
これはもしかして「心の病」というやつか?
しかし無意識に人の金を盗む「心の病」なんてあるのか?
俺の周りにはいなかったので解らなかった。
でも・・・でももしそうなら・・・。原因がどこかにあるはず。
俺は聞いてみた。
「華は最近学校行ってんのか?」
無言で首を横に振る。
「んじゃ・・・友達はおるんか?」
これも無言で首を横に振る。
寂しいのか?構って欲しいのか?金を盗むことによって?
俺は質問を続けた。
「お父さんは・・・どんな人なん?華の」
すると消え入りそうな声で答える。
「ぉとん・・は・・ぉれへん・・・」
「そうか。お母さんは?お母さんが働いてんか?」
首を横に振る華。
そして・・・
「ぉかんは・・・アル中や・・・。基地外なっとる・・・」
マジでか!!??嘘じゃないだろうな!!??
どうやって生活してんだ?この家は?



188 名前:1:2008/04/15(火) 12:51:11.79 ID:8ChvwtkW0
「そか・・・」俺は息を吸い込んだ。
この時俺はまたしても大甘だった・・・。
華の境遇を聞いて同情してしまったのだ。
「華は兄弟おれへんのか??」
兄弟がマトモならまだ救いがある。
そう思った俺だったが・・・・。
ここで想像を絶する答えが返ってきた。
「弟がぉるけど・・・チャンソリ(シンナーを吸うこと)でラリッって頭いかれとる・・・」
!!!!!
弟ということは当然華より年下。小学生かもしれん・・・。
それがラリって頭がいかれてる・・・。
これが本当に事実なら俺の想像を遥かに超えた家庭だ。



195 名前:1:2008/04/15(火) 12:56:28.23 ID:8ChvwtkW0
しかしよく考えてみると。
そんなもんかもな・・・。
俺には想像を超えた世界であってもそういう世界は存在している。
決して珍しいことじゃない・・・。
そんなことを考えていた。
俺は華に掛ける言葉が見つからなかった。一言だけ・・・。
「大人になって自立したら、それなりの自由を手に入れる事ができる。
あと4年だけがんばれ!」
そう伝えた。
華はまた泣き出した。
しかし俺にはどうしてやる事もできひん・・・。
「帰ろか・・・?」
華にそう言った瞬間、華から信じられない言葉が出た。



207 名前:1:2008/04/15(火) 13:03:02.45 ID:8ChvwtkW0
「ぁんなぁ・・・1・・・」
「ん?どした?」
「ぁんなぁ・・・・」
なぜかモジモジしている華。
「どしたんや?言うてみて」
「ぅん・・・」そう言いながらハンカチで涙を拭く華。
ハンカチはいつもキチンと持ち歩いてるのね。
「1はなぁ・・・彼女とかぉるん・・??」
そう言って顔を上げた華・・・。
その顔はグシャグシャに泣き腫らした顔だが
とても可愛い表情をしていた。
ドキン・・・気持ち悪いが本当にそんな感じがした。



217 名前:1:2008/04/15(火) 13:06:59.17 ID:8ChvwtkW0
少し動揺した。いやかなり・・・。
俺は
「いや・・・いまおれへんよ」
華の表情が一瞬明るくなったような気がした。
「ほんまに・・!?」
「う・・・うん」
次の言葉を待つ俺・・・。当然そういう展開になるだろうな。
どうしよう・・・。
「ぁんなぁ・・・華なぁ・・・」
来る!!
「1のな・・・彼女になりたいねん・・・」
懇願するような目。
一言で言うと可愛い。
子供と大人の女が入り混じった魅力だ。
「・・・・・・・・・」
俺は返答ができない。



227 名前:1:2008/04/15(火) 13:13:21.59 ID:8ChvwtkW0
「俺は・・29歳やで・・・」
意味不明だがこれが根本だろう。
俺が厨房なら二つ返事でOKだ。
下を向く華・・・。
「それは・・・ぁかんってこと・・・??」
「というか・・・世間的にみてもヤバいと思うし・・・」
「せけんとか・・・関係なぃやん・・・」
そうか!華は厨房か。確かに世間体なんて気にする年齢じゃない。
俺は聞いた
「華は15も離れた俺と付き合ってなにがしたいの?話題も合わんで?」
華はポツリと言う
「ぅちなぁ・・・1の彼女になったら。ちゃんとできると思うねん。
学校もぃって・・・もう悪いことせんようにできると思ぅねん」
これは・・・。心を揺さぶってきた。



240 名前:1:2008/04/15(火) 13:22:14.79 ID:8ChvwtkW0
「ほんまに・・・学校とか行けるの・・?」
ヤバイ!!流される。
この時の俺は華に恋愛感情は無かった。
当たり前である。鉄パイプで殴られた上
つい先日は遊びに行った先で財布から金を盗まれたのだ。
信用度も限りなく0に近い。
そしてなにより・・・。この家庭環境にして盗難癖。
ロリコンに対する世間の目。
確実な爆弾だ。華は。
しかし・・・流された感情はなかなか返ってこない。
その時コテン・・・と顔を俺の肩に倒してきた。
可愛い。そう感じざる行為だ。
だたそれは親戚の子供の可愛さに近い。
もう14歳だけど・・・。
でも俺の肩に顔を傾ける華から感じたのは
「華は14歳ですでに疲れきってんやなぁ・・・」
そんな感情だった。



250 名前:1:2008/04/15(火) 13:29:41.40 ID:8ChvwtkW0
「華・・・」
俺は決心した。
「付き合ってみる・・・?俺おっさんやけど」
華は肩に頭を乗せたまま俺の顔をのぞき込んできた。
かなりの至近距離。
「ほんまに・・・??」
瞬きをする表情が可愛い。
それに・・・既に女の匂いもする。
「うん。ほんまに」
俺はそう答えた。
はっきり言って同情だった。
偽善的行為でもある。
俺が彼氏になることで1人の女の子が更正する。
大甘な偽善だった。
しかし・・・それが分かっていても
この時は気持ちがそっちに傾いてしまったのだ。
華は「ぁりがとぉ・・・1・・・」と言って目を閉じた。
しかし華はこの後俺の人生を狂わす爆弾と化す。

とんでもない彼女は強盗【第3部】




裁判長! 桃太郎は「強盗致傷」です! (電撃ジャパンコミックス)
相川 タク
KADOKAWA / アスキー・メディアワークス
2012-10-24