1 :名も無き被検体774号+:2012/10/18(木) 22:38:00.45 ID:oIV6bjxg0
これは多分、君が想像してるのとは、 
正反対の話になるんだと思う。 

だって、二十歳の記憶を持ったまま、 
十歳の時点に戻ってやり直せるとしたら、 
普通、その記憶を利用して色々するだろう? 

一周目の反省や教訓を活かして、 
もっと優れた二周目を目指すはずだ。 

でも僕がしたことと言えば、 
まさにその正反対のことだったんだ。 
今思うと、馬鹿なことをしたと思うよ。本当に。 
3 :名も無き被検体774号+:2012/10/18(木) 22:39:03.78 ID:oIV6bjxg0
自分の人生が十年巻き戻されたことを知ったとき、 
僕は思ったよ、「なんて余計なことをするんだ!」ってね。 

というのも、僕は自分の人生が気に入っていたんだ。 
可愛い恋人がいて、友人にも恵まれていて、 
まあまあの大学に通っていて、前途洋々でさ。 

人生をやり直すチャンスってのは、もうちょっと、 
自分の人生に心底絶望しきってるような、 
そういう人に与えられるべきだったんだと思うよ。 

それで、僕は余計なことを思いついちゃったんだ。 



4 :名も無き被検体774号+:2012/10/18(木) 22:41:30.25 ID:oIV6bjxg0
僕が思いついたことと言うのは、一周目の人生を、 
二周目でも、そのままやり直そうということだった。 

自分がこれから犯す間違いが分かっていても、 
あえて全部、そのまま繰り返そうって思ったんだ。 
十年分の巻き戻しを、まったく無意味にしてやろうってわけ。 

これから起こる事件や災害、危機や変革のことも 
大体頭に入っていたけど、僕は口をつぐむことにした。 
とにかく、徹底的に一周目を模倣しようとしたんだよ。 



6 :名も無き被検体774号+:2012/10/18(木) 22:43:04.62 ID:oIV6bjxg0
二周目の人生は、ちょうど十歳のクリスマスから始まった。 

僕がそれに気付けたのは、枕元に置いてあった、 
スーパーファミコンの入った紙袋のおかげだったんだ。 
当時はそれが欲しくて仕方なかったんだよ。 

紙袋の中には、一緒にゲームソフトも入っていた。 
そのゲームの言い方を借りれば、僕の人生は、 
『つよくてニューゲーム』にあたるわけだな。 

結露した窓をパジャマの袖でこすって外を見ると、 
まだうす暗く、雪に覆われた街が一望できた。 
かなり寒いはずなんだけど、子供の体は温かかったな。 



7 :名も無き被検体774号+:2012/10/18(木) 22:45:42.87 ID:oIV6bjxg0
僕が紙袋をごそごそやっていたせいで、 
二段ベッドの下で寝ていた妹が、目を覚ました。 
妹は眠たげな目で枕元のテディベアを眺めて、 
少し遅れて、「わあー」と歓声をあげた。 

僕ははしごを下りて、妹のベッドに腰掛け、 
テディベアに夢中な妹に、「なあ」と話しかけた。 

「兄ちゃんは、十年後から戻ってきたんだよ」 

妹は寝ぼけた様子で、「おかえりー」と笑った。 
僕はなんだかそれが気に入っちゃって、 
「ただいま」と言って妹の頭を撫でた。 
妹は不思議そうな顔で僕の顔を見つめた。 



9 :名も無き被検体774号+:2012/10/18(木) 22:52:27.68 ID:oIV6bjxg0
僕は自分の最高の思い付きを誰かに披露したくて、 
目の前にいる七歳の妹に、こう言った。 

「今の僕には、これから自分が犯す過ちだとか、 
本当にやるべきことというのが、分かるんだ。 
今からなら、神童にだって、予言者にだってなれる。 

でも、僕はなにひとつ変える気がないんだ。 
前と同じ人生を送られれば、それだけで十分だからね」 

テディベアを抱えた妹は、僕の顔をぼうっと見つめて、 
「よくわかんない」と正直なところを答えた。 



10 :名も無き被検体774号+:2012/10/18(木) 22:56:03.68 ID:oIV6bjxg0
一周目の再現に関して、僕は妥協しなかった。 

周りの連中をコケにしたくなるのを我慢して我慢して、 
わざわざ一周目と同じ事故に遭いさえしたんだ。 
何をするにも、手を抜くことに真剣だったね。 

我ながら、僕はよくがんばった方だと思うよ。 
それでも、蝶の羽ばたきひとつ程度の違いで、 
人生ってやつは、かなり変わってしまうものらしい。 

二周目に入って五年も経つ頃には、僕の人生は、 
一周目のそれとは、大きく様変わりしていたんだ。 



12 :名も無き被検体774号+:2012/10/18(木) 23:01:05.84 ID:oIV6bjxg0
何から話せばいいかも分からないけど、 
とにかく、一から十まで変わってしまったんだ。 

一言でいうとね、僕は、落ちぶれたんだ。 
一周目の人生からは、とても考えられないほどに。 

理由は後で詳しく説明するけど、一例を挙げると、 
一周目で親友だった人物にいじめられたり、 
一周目で恋人だった女の子にふられたり、 
一周目で通っていた高校の受験に失敗したり。 

奇跡的な悪循環が生じたわけだよ。 



14 :名も無き被検体774号+:2012/10/18(木) 23:05:14.62 ID:oIV6bjxg0
そんなこんなで、高校生になる頃には、 
僕はすっかり暗い人間になってしまっていた。 

志望校には落ちて、ろくでもない高校に入って、 
芽生えかけていた人間嫌いに磨きがかかってさ。 
絵に描いたような孤独な人間になったんだ。 

だから二周目の高校時代の思い出ってのは、 
ほとんどないんだ。卒業アルバムも捨てちゃった。 
寂しいもんだよ。修学旅行さえ苦痛だったんだ。 



15 :名も無き被検体774号+:2012/10/18(木) 23:10:47.95 ID:oIV6bjxg0
でも、ひとつだけ、悪くない思い出がある。 

高校二年生の冬、ひどい吹雪の日だったな、 
僕はがたがた震えながらバスを待ってたんだ。 

その時、僕はふと、少し離れた場所で 
僕と同じようにバスを待っている女の子が、 
見たことのある顔だってことに気付いた。 

いや、忘れるはずもないんだ。 
それは一周目では僕の恋人だった女の子だ。 
十五歳で付き合い始めてからは、ずっと傍にいたんだ。 

それが、二周目では、あっさり告白を断られてさ。 
思えば、悪循環の始まりはそこだった気もする。 



16 :名も無き被検体774号+:2012/10/18(木) 23:16:14.33 ID:oIV6bjxg0
向こうは、僕に気付いてないみたいに見えた。 
そうでなくても、僕の存在なんて、 
とうの昔に忘れちゃってたかもしれない。 

それでも僕の目には、寒さに震える彼女が、 
なんだか寂しそうに見えて――隣に誰か、 
温かい存在を必要としているように見えたんだ。 

いやあ、実に自分に都合のいい想像だよ。 
それでも僕は幸せだった。だってさ、 
自分が必要とされている気がしたんだ。 

あの子にはやっぱり僕が必要なんだって、 
幸せな勘違いをすることができたんだ。 



17 :名も無き被検体774号+:2012/10/18(木) 23:20:47.12 ID:oIV6bjxg0
生きる気力をすっかり失っていた僕だったけど、 
かつての幸せな日々を取り戻したくて、 
彼女と同じ大学へ行くために猛勉強した。 

おかげで僕の学力は最後まで伸び続けて、 
一周目で通っていた大学に、無事合格できた。 
悪くない気分だったな。奇跡みたいだったよ。 

そこまではいい。そこまでは良かったんだよ。 

入学式が終わって、僕は彼女の姿を捜し回って、 
ついに見つけ出したわけなんだけど、 
むしろ、そっからが問題なんだ。 



19 :名も無き被検体774号+:2012/10/18(木) 23:24:56.03 ID:oIV6bjxg0
体温が三度くらい下がった気がしたね。 

かつての恋人が、知らない男と腕を組んで歩いている。 
それだけなら、まだ我慢することができたかもしれない。 

でも、その男と言うのが、どこからどう見ても、 
一周目の僕にそっくりだとなると、さすがに話は違ってくる。 

僕のかつての恋人の隣を歩いている男は、 
背格好、仕草、声、喋り方、表情の作り方、 
どこをとっても、一周目の僕と瓜二つなんだ。 

ドッペルゲンガー、という言葉が僕の頭に浮かんだ。 



24 :名も無き被検体774号+:2012/10/18(木) 23:30:28.30 ID:oIV6bjxg0
二周目の僕は、一周目の僕と比べると、 
身長は四センチ小さかったし、体重は十キロ軽く、 
比べ物にならないくらい表情が暗くなっていた。 

仮に一周目の人生を正確に再現できていたら、きっと、 
目の前にいるその男みたいになれていたんだと思う。 

どうりで僕が彼女と付き合えなかったわけだよ。 
二周目では、僕の代役がいたんだ。 



30 :名も無き被検体774号+:2012/10/18(木) 23:36:42.95 ID:oIV6bjxg0
誰かに対して敵意を抱いたのは、久しぶりだったね。 

『おい、違うだろ、それは僕の役だろうが!』って、 
狂ったように頭の中で言いつづけていたと思う。 

それからの数か月は本当に驚きっぱなしだったよ、 
なにせ、かつての僕の大学生活というものを、 
僕の分身が次々と正確に再現してみせたんだから。 

それにしても、客観的に見ることで、あらためて、 
一周目の僕って幸せだったんだなあって思ったよ。 
そのくせ嫌味もないし、人に親切だし。 



31 :名も無き被検体774号+:2012/10/18(木) 23:40:57.87 ID:oIV6bjxg0
秋頃になって、僕の頭の中で何かが切れた。 

その頃になると、僕はほぼ引きこもりになっていて、 
ほとんど大学には行かず、一日中安酒を飲んで、 
ろくに食事もとらず、寝てばかりいたんだ。 

このままじゃ発狂すると思ったね。 
何をしていても、例のドッペルゲンガーと、 
今の自分とを比較してしまうんだ。 

そうすると、それまで当たり前だったことさえ、 
急に耐えられなくなっちゃうんだよ。 



32 :名も無き被検体774号+:2012/10/18(木) 23:45:07.18 ID:oIV6bjxg0
変なところで、僕は冷静だったんだよ。 
今の自分が、彼女にふさわしい男ではなくて、 
分身に勝てないことは、重々承知していたんだ。 

でも、その上で考えたやり方と言うのは、 
とても正気の沙汰とは思えなかったね。 

つまり僕は、僕の代役を務めるあの男を、 
ぶっ殺してしまおうと思ったわけなんだ。 

そしたらあの子も、また寂しくなって、 
僕の方に傾くんじゃないか、ってね。 

いやあ、追い詰められた人間ってのは、 
本当にろくなことを考えないよ。視野が狭くて。 



35 :名も無き被検体774号+:2012/10/18(木) 23:52:36.82 ID:oIV6bjxg0
そういうわけで、僕の恋人奪還作戦が始まった。 
別の言い方をすれば、ドッペルゲンガー殺害計画。 

以後、僕は定期的にその男を尾行するように 
なったんだけど、おかげで引きこもりが治ってさ。 
皮肉なことに、殺害計画を思いついてから、 
しばらく僕の性格はとっても明るくなるんだよ。 

妹に指摘されて、僕は自分の変化に気付いたんだけど、 
――そう、すっかり妹の話を忘れていた。 
僕に匹敵するくらいの変化を遂げた妹の話。 



37 :名も無き被検体774号+:2012/10/18(木) 23:58:10.82 ID:oIV6bjxg0
本来、僕の妹は、運動と太陽をこよなく愛していて、 
年中健康的に日焼けしている、活発な女の子だった。 

ところが二周目においては、僕の影響を受けたのか、 
読書と日陰を好む、色白の眼鏡の子になったんだ。 

一周目を知る人から見たら、何かの冗談みたいだよ。 

兄妹揃って暗い人間になって、家は毎晩お通夜みたいだったな。 
両親も自分に自信がなくなったのか、嫌な人間になっていった。 
いやあ、人一人の持つ影響力ってのは、馬鹿にならないね。 



38 :名も無き被検体774号+:2012/10/19(金) 00:03:30.44 ID:oIV6bjxg0
かつて僕と妹は、周りがあきれるくらい仲良しで、 
僕に恋人ができるまでは、どこへ行くにも一緒だった。 

でも二周目では、口をきかないどころか、 
目さえ合わせようとしなかったね、お互いに。 

妹は僕のことを嫌っていたんじゃないかな。 
だって、たまに珍しく口を開いたかと思えば、 
それは大抵、僕に対する文句だったからね。 
「目つき悪い」とか。人のこと言えないだろ。 

いやあ、実に悲しいもんだったよ。 
娘に嫌われた父親って、こんな気分なんじゃないかな。 



39 :名も無き被検体774号+:2012/10/19(金) 00:09:19.30 ID:vRIuLzlA0
ところが、僕がドッペルゲンガー殺害計画を立て、 
嬉々として殺害方法を考えていた夜、その妹が、 
一人で僕のアパートにやってきたんだ。 

僕のことが大嫌いなはずの妹がだよ。 

ちょうど、初雪が観測された日のことだったな。 
あまりに寒いから、やむなくヒーターを点けて、 
懐かしい感じのする灯油の匂いが部屋に満ちて、 
そのとき、部屋の呼び鈴が鳴ったんだ。 

制服にカーディガンを重ねただけの格好の妹は、 
白い息を吐きながら、僕の目を見ずに言った。 
「しばらく、ここに泊めてちょうだい」 



41 :名も無き被検体774号+:2012/10/19(金) 00:14:26.01 ID:vRIuLzlA0
本人はその言い方をしたがらなかったけど、 
妹のしていることは、いわゆる「家出」だった。 

らしくないことをするな、と僕は思ったな。 
たとえ家に不満があっても、家出のような 
意味のない行動に出るやつには見えなかったし。 

「どうやってここまで来たんだ?」と僕がたずねると、 
妹は「どうだっていいでしょう?」と模範解答をした。 

「汚い部屋」と妹は言った。「趣味も悪いし」 
「嫌なら出てけ」と僕も模範解答をした。 

一周目の妹だったら、苦笑いしながら掃除して、 
美味しい料理でも作ってくれたんだろうけど。 



42 :名も無き被検体774号+:2012/10/19(金) 00:19:50.27 ID:vRIuLzlA0
妹だって、僕のところに来たくはなかったはずだ。 
友人の少ない妹には、他に行く当てもないから、 
やむを得なくここに家出してきたんだろうな。 

まだ冬休みも始まっていないだろうし、 
そんなに長くは滞在しないとは思うけど、 
さっさと出て行ってくれないかな、と僕は思った。 

けれども妹に強く言う勇気もなかった。 
二周目の僕はとことん臆病者なんだよ。 
そして二周目の妹はちょっと怖いんだよ。 

かくして、非常にぎすぎすした二人暮らしが始まったんだ。 



60 :名も無き被検体774号+:2012/10/19(金) 20:09:48.94 ID:vRIuLzlA0
翌朝の八時くらいに、妹は僕を揺り起した。 
驚いてすっかり目が覚めてしまった僕に、 
妹は「この街の図書館に連れてって」と言った。 
それからちょっと間を置いて、「いますぐに」と付け足した。 

二周目に入ってから、僕の睡眠時間は激増して、 
十時間は眠らないと辛い体質になってしまっていた。 
多分、起きてる時間が苦痛だからなんだろうけどさ。 

それでも、相手が家出少女だろうと不登校児だろうと、 
女の子に起こされるってのは、悪い気分じゃなかったね。 
そういうのって、なんだかとっても人間的だよ。 



62 :名も無き被検体774号+:2012/10/19(金) 20:21:16.55 ID:vRIuLzlA0
車に乗った妹の第一声が、「煙草くさい」だ。 
そして後部座席を見て、「きたない」と言った。 
「持主の性格が分かるね」とのこと。そいつはすごい。 

空は曇っていて、辺りは薄い霧に覆われていた。 
図書館へ向かう最中も妹は文句を言い通しで、 
勝手に借りている僕のコートが煙草くさいとか、 
何か音楽は流さないのかとか、好き勝手言っていた。 

無視し続けたら、ティッシュの箱で叩いてきた。 
「人の話はちゃんと聞きなさい」と言われた。ごもっともだ。 
ちなみに図書館では、本選びに時間をかける妹に 
「まだか」と聞いたら、「しゃべるな」と本で叩かれた。 
二周目の妹ってのは、こんな感じなんだよ。 



64 :名も無き被検体774号+:2012/10/19(金) 20:30:59.57 ID:vRIuLzlA0
妹は、僕の部屋で一日中本を読んで過ごすらしい。 
僕が家を出て行こうとすると、妹は顔を上げて、 
「おにいちゃん、大学行くの?」と聞いてきた。 

「殺害したい相手の生活パターンを知りたいから、 
ストーカーしに行くんだ」と言うわけにもいかないから、 
僕は「そう、大学だよ。七時には帰る」と答えておいた。 

今年中には、この問題に決着をつけたかったんだ。 
ドッペルゲンガーと元恋人が共にクリスマスを過ごしたり 
新年を迎えたりすることなんて、考えたくもなかったからね。 



65 :名も無き被検体774号+:2012/10/19(金) 20:38:33.01 ID:vRIuLzlA0
その頃になると、殺害方法は既に決まっていて、 
ドッペルゲンガーの行動様式も大体把握して、 
実を言うと、とっくに行動に移っても良い頃合だったんだ。 

それでも僕がだらだらと尾行を続けていたのは、 
多分、踏ん切りがつかなかったからと思う。 

つまり僕は、彼が欠点を晒してくれるのを待っていたんだな。 
僕は、彼が死ぬべき人間だって思い込みたかったんだ。 
殺すに値する理由が、ほんの少しでも欲しかったんだよ。 

困ったことに、数か月に渡ってあら探しを続けても、 
彼は短所らしい短所をまったく見せないでいた。 

どっちかと言うと、僕の方が死ぬべき人間なんだろうな。 



66 :名も無き被検体774号+:2012/10/19(金) 20:45:07.83 ID:vRIuLzlA0
妹と図書館に行ってきた時に借りた本によると、 
ドッペルゲンガーには、以下のような特徴があるらしい。 

・周囲の人間と会話をしない。 
・本人に関係のある場所に出現する。 
・ドッペルゲンガーに出会った本人は死んでしまい、 
 ドッペルゲンガーがオリジナルになってしまう。 

ちょっと考えればわかることだけど、これらの特徴、 
どちらかというと全て、僕の方に当てはまるんだよな。 

友人のいない僕はめったに人と会話しないし、 
同じ大学に通う僕らは出現場所が似ているし、 
死ぬとしたら彼の方だし(僕が殺すからね)、 
向こうの方が見た目も中身も一周目の僕に近い。 

これじゃあまるで、僕が偽物みたいじゃないか。 



69 :名も無き被検体774号+:2012/10/19(金) 21:57:05.56 ID:vRIuLzlA0
友人がいないと言えばさ、一周目の僕は、 
仲良く談笑できるくらいの相手は、大学中に、 
控え目に見積もっても二百人はいたんだよ。 

当時の僕は、そいつらが皆、癖こそあれ、 
それぞれにいい所を持った奴に見えたんだけど、 
今になって少し離れた場所から見ていると、 
どいつもこいつも、ろくでなしのように見えたね。 

自分と関係のある人間が良いやつに見えて、 
関係のない人間が嫌な奴に見えるのは当前だけどさ、 
変な話、そういうことに僕は慰められたんだよ。 

ああ、少なくとも、一周目の僕は、全てにおいて 
恵まれていたわけじゃなかったんだ、って思うとね。 

惨めな話だよ、そんなことに喜びを感じるなんて。 



70 :名も無き被検体774号+:2012/10/19(金) 22:08:42.41 ID:vRIuLzlA0
かつての友人たちが、一周目とは違う顔を 
僕に見せるのは、なかなか興味深かったね。 

優しいと思ってた奴が利己心の塊だったり、 
謙虚だと思ってた奴が自己顕示欲の塊だったりさ。 

ただ、これは僕の憶測だけど、一周目において、 
僕が彼らのことを良い人間だと感じていたのは、 
けっして勘違いではなかったと思うんだよ。 



73 :名も無き被検体774号+:2012/10/19(金) 22:19:58.26 ID:vRIuLzlA0
人ってのは、極端に優れた人物を前にすると、 
無意識にそいつの影響を受けてしまって、 
一時的に良い人間になれるんじゃないかな。 

一周目の僕を前にしているときに限定すれば、 
おそらく彼らは、実際に良い人間だったんだよ。 
逆に、今の僕みたいなのを前にすると、 
肩の力を抜いて、安心して屑になれるんだ。 

僕が何を言いたいかっていうとね、 
相手が嫌な人間だと感じたら、その時点で、 
少なからずこちらにも責任があるってわけさ。 



74 :名も無き被検体774号+:2012/10/19(金) 22:31:56.64 ID:vRIuLzlA0
ただ、いくら自分と関係がなくなっても、 
これっぽっちも魅力を減じないどころか、 
ますます魅力を増すような人間もいたね。 
まあ、もちろん、元恋人のことだけどさ。 

手に入らないものほど欲しくなるってのもあるけど、 
二周目の僕は、下手をすれば一周目の僕より、 
更に彼女を好きになっていたように思うな。 
うん、崇拝していたと言っても過言ではないね。 

今こそ、今こそ人生をやり直すチャンスをくれよ、 
そう僕は思った。今度こそ上手くやってみせるからさ。 

僕は布団にもぐり、目を閉じて、その晩も祈る。 
目が覚めたら三周目が始まっていますように。 



75 :名も無き被検体774号+:2012/10/19(金) 22:50:05.67 ID:vRIuLzlA0
さて。妹が家出してきてから、五日が経過した。 

さすがにそろそろ邪魔になってきたから、 
勇気を出して、「いつ頃帰る?」と聞いてみると、 
「おにいちゃんが帰れ」と返された。僕が悪かったよ。 

ちょうどその日、母親から電話があって、 
妹がそちらに行っていないかと聞かれたから、 
五日前から居座っていることを正直に話してやった。 

そのことを妹に伝えると、彼女は「そっか」とだけ言い、 
しばらくすると、荷物を丁寧にまとめ始めた。 
こういうところは、異様にものわかりが良いんだよな。 



76 :名も無き被検体774号+:2012/10/19(金) 22:57:00.94 ID:vRIuLzlA0
バスターミナルまでは見送ることにした。 
雪が結構ひどくて、あまり街灯もない道で、 
妹一人で行かせるには心配だったからね。 

隣と呼んでいいのかどうか分からないくらいの 
絶妙な距離を保ちながら歩く僕たちは、 
あいかわらず、終始口をつぐんでいた。 
一周目だったら、手を繋いで歩いてたとこだよ。 

妹は、僕のことを恨んでるんじゃないかと思ったな。 
まあ、とっくに嫌われてるからいいけどさ。 
それに、これから人一人殺そうって人間が、 
誰にどう思われるか一々気にしてたら、きりがないよ。 



79 :名も無き被検体774号+:2012/10/19(金) 23:03:49.33 ID:vRIuLzlA0
バスターミナルの建物は老朽化してて、 
壁や床はあちこち黒ずんで、蛍光灯は黄ばんで、 
椅子のクッションは破れて中身が飛び出し、 
売店には薄汚いシャッターが下りていた。 

バスを待つ客も数人のみで、しんとしていた。 
あまりにも陰鬱な感じがして、まるでここにいる皆が、 
家出先から実家に帰るとこなんじゃないかって感じ。 

「汚いところ」と妹は言った。「お兄ちゃんの部屋みたい」 
「情緒があるよ」と僕は自分の部屋をフォローした。 



81 :名も無き被検体774号+:2012/10/19(金) 23:14:55.55 ID:vRIuLzlA0
僕と妹は、40cmくらい距離をとって椅子に座り、 
カップ式自販機のココアを飲みながらバスを待った。 

ひどい場所だったね。ここからバスに乗ったら、 
昭和や大正に連れてかれるんじゃないかと思った。 
まあ、本当にそうだとしたら、僕は進んで乗っただろうけどね。 

僕がココアを飲み終えると、妹は「ん」と手を差出し、 
僕のカップを自分のカップに重ね、捨てに行った。 
すたすた歩く妹の背中を、僕は後ろから眺めていた。 

一周目の妹と比べると、ずいぶん頼りない感じがしたな。 



82 :名も無き被検体774号+:2012/10/19(金) 23:22:12.87 ID:vRIuLzlA0
突然僕は、妹に、ものすごく悪いことをしたような気になった。 

妹が家出した十六歳の女の子だってことを、 
僕は、きちんと配慮していたと言えるだろうか? 
本当は、母親には嘘をつくべきだったんじゃないか? 

そもそもこの子は、家出なんてするタイプじゃないんだ。 
よっぽどの考えがあって、僕のもとに来たんだろう。 

せめて本人が満足するまでの間くらいは、 
かくまってやった方が良かったんじゃないか? 



83 :名も無き被検体774号+:2012/10/19(金) 23:33:45.66 ID:vRIuLzlA0
妹がバスに乗り込む寸前、「なあ」と僕は言った。 
「また家出したくなったら、来るといいよ」 

こんな台詞でも、言うのにずいぶん勇気を必要とした。 
二周目の僕は、家族に対してさえ臆病なんだよ。 

振り返った妹は、めずらしく目を見開いて、 
しばらく立ち止まって僕の顔を見て、 
「そうする」と言って笑い、バスに乗り込んだ。 

バスが行ってしまうと、僕は待合室に戻り、 
帰り道に向けて、再びココアで体を温めた。 
妹の笑顔を見て、やけにほっとしている自分がいたな。 



85 :名も無き被検体774号+:2012/10/19(金) 23:44:28.71 ID:vRIuLzlA0
妹は僕の言葉に甘えることにしたらしく、 
三日後、再び僕の部屋を訪れた。 

家にいるときに妹がすることと言えば、 
一方的に僕の悪口を並べ立てた後、 
「おにいちゃんは駄目だねー」と言うことだった。 

そして僕の夕飯をおいしそうに食べ、 
僕のベッドを占領してすやすや寝た。 

翌日、父親が迎えに来て、妹を連れて帰った。 
この分だと、またすぐに戻ってくるだろう。 
何が彼女をここまでさせるんだろうか? 



94 :名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 16:36:35.08 ID:JuWNwpCZ0
ところで、二周目の僕が、擁護しようがないくらい 
明らかに一周目の僕より劣っているとは言え、 
部分的には、優れているところもあったんだ。 
第一、そうでなきゃ、やってらんないよね。 

二周目の僕は、一周目の僕と比べると、 
百倍くらい本を読む人間だったんだ。 
それはもちろん、孤独を紛らすために、 
図書室に通ったことが起因してるんだけどさ。 

そして、これから話す出来事において、 
その趣味がそこそこ役に立ったんだよ。 



96 :名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 16:44:08.20 ID:JuWNwpCZ0
かつての僕は、恋人のことを、完全に分かった気でいたな。 
五年間、ずっと一緒にいて、実に色んなことを話したからね。 
ところがさ、案外、僕の知らない面も存在したみたいなんだよ。 

その日も僕は、妹に踏まれて目を覚ましたんだ。 
「図書館に本返すから」と妹は言った。「市民の義務だから」 
まあ、午後四時にぐっすり寝てる僕も悪いんだけどさ。 

図書館につくと、妹は本の束を抱えて歩いて行った。 
辺りは早くも薄暗くなってて、街灯が点きはじめてたね。 



97 :名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 16:52:29.83 ID:JuWNwpCZ0
僕は駐車場のすみっこ行って、煙草に火を点けた。 
そこは物置みたいになってて、色んなものが散乱してたな。 
錆びた自転車とか、ポールとか、柵とか、そういうもの。 
ガラクタの中で、室外機だけが辛うじて息をしていた。 

僕は柵に腰かけて、煙草を吸っていたんだ。 
なぜかそこには、きちんとした灰皿があったからね。 
二周目の僕は、こういう寂しい場所にくると、 
心がやすらぐような人間になってたんだ。 

ふと見ると、こっちに向かって誰か歩いてくるのが見えた。 
どうやら僕と同じ用らしくて、手には煙草を持っていて、 
――そう、それが僕の元恋人だったわけなんだよ。 



102 :名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 17:04:10.70 ID:JuWNwpCZ0
僕の元恋人はとっても礼儀正しい子だったからさ、 
気まずそうな顔をしながらも、僕に挨拶したんだ。 
相手が誰であれ、笑顔で挨拶してくれる子なんだよ。 

僕も同じように挨拶しかえしたけど、内心、取り乱してたな。 
彼女が喫煙者だなんてこと、僕は知らなかったし、 
この図書館の利用者だってことも知らなかったんだ。 

あれだけ話す機会を欲しがっておきながら、 
いざとなると、何にも言葉が出てこないんだよ。 
何か喋んなきゃ、って焦るばかりでさ。 
なんとか会話を繋いで引きとめよう、ってね。 



103 :名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 17:12:37.38 ID:JuWNwpCZ0
「本、借りに来たの?」と彼女は僕にたずねてくれた。 
「僕じゃなくて、妹がね」と僕は正直に答えた。 
「そっか、妹さんか。……君は本、読まないの?」 

「そこそこ」と答えると、元恋人は嬉しそうな顔をした。 
周りに本を読む人間が少なかったんだろうね。 
それから僕たちは十分くらい、本の話をしたんだ。 

他愛もない話だったよ。大した意味のない会話。 
一周目の僕だったら、二秒で忘れるような会話さ。 

でもさ、たったそれだけのことで、僕は、 
嬉しさで胸がはちきれそうだったんだ。 
この時間が、少しでも長く続けばいいって願ったよ。 



104 :名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 17:21:55.14 ID:JuWNwpCZ0
「煙草、吸うんだね。意外だな」と僕が言うと、 
僕のかつての恋人は、困ったような顔で笑った。 
「彼にも秘密にしてるんだ。今の所、君しか知らない」 

僕はその言葉を脳に刻みつけたね。 
”君しか知らない”。実に心地よい響きだよ。 

辺りが真っ暗になって、彼女は帰って行った。 
僕はしばらく、彼女との会話の余韻に浸っていたな。 
止まらない体の震えは寒さによるものなのか、 
興奮によるものなのかは、分かんなかった。 
こんなんで喜べるなんて、エコの極みだよね。 

それに、このとき僕はまだ、自分のしている 
致命的な勘違いには気づいていないんだ。 



105 :名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 17:28:23.13 ID:JuWNwpCZ0
妹はすでに車で待機していて、僕が戻ると、 
「五分の遅刻」と頭を五回たたいてきた。 
一時間遅刻したら大変なことになってたと思うよ。 

図書館を出てからしばらくして、妹が言った。 
「おにいちゃん、さっきの女の人、仲良いの?」 

「いや。僕と口をきいてくれるくらい、あの子が優しいってだけ」 
「ふうん。じゃあ、私も優しいね。口きくから」 
「違うな。僕たちは単に仲が良いんだよ」 
「ええ、そうなの?」と妹は迷惑そうに言った。 



107 :名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 18:04:05.46 ID:JuWNwpCZ0
街路樹や店先にイルミネーションが灯り、 
いたるところでクリスマスソングが流れ、 
駅前には巨大なモミの木が設置され、 
いよいよクリスマスが近づいてきていた。 

妹は四回目の家出から無念の帰宅をして、 
僕は駅にあるカフェでコーヒーを飲んでいた。 
そこからだと、広場の様子がよく分かるんだ。 

そして駅前の広場は、僕の元恋人が、 
待ち合わせによく使っていた場所なんだよ。 
僕はそこで、彼らが落ち合うのを見張っていた。 

この日は、ちょっと特別な日なんだ。 



110 :名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 18:17:52.71 ID:JuWNwpCZ0
言い忘れてたけど、僕の誕生日って言うのは、 
十二月二十四日、クリスマスイブなんだよ。 

そして僕の恋人は、クリスマスと誕生日が被るのは 
嫌だということで、一週間前に祝うようにしていたんだ。 

ドッペルゲンガーも僕と誕生日が同じらしくて、 
lクリスマスツリーの下で恋人と落ち合った彼は、 
綺麗に包装されたプレゼントを受け取っていた。 

こんな立場じゃなきゃ、微笑ましい場面だったんだど、 
僕はそれを見て思わず頭を抱えたね。 



111 :名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 18:26:39.97 ID:JuWNwpCZ0
それでね、ふと横に目をやると、おかしいんだよ、 
僕とまったく同じように頭を抱えている人がいたんだ。 

そいつをよく見ると、知らない顔じゃなかった。 
というのも、その子は小中高と同じ学校に通っていて、 
さらには大学の学部まで一緒の子だったから、 
人の顔を覚えられない僕でも、さすがに覚えてたんだ。 

でも、あんまり口をきいたことはなかったな。 
だって、向こうも僕には言われたくないだろうけど、 
ひどく話しかけづらい子だったんだよ。 

彼女の視線は、僕と同じで、駅の広場に向いていた。 
そりゃあ、ここにいたら、他に見るものはないんだけどさ、 
彼女を見ているうちに、僕の中で何かが引っかかったんだ。 



113 :名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 18:39:16.67 ID:JuWNwpCZ0
人ってさ、一緒にいる時間が長いと、 
口癖とか仕草とかが伝染るじゃないか。 

だから、一周目において、僕と恋人の間には、 
いろんな共通する「癖」があったんだ。 

そのとき隣の女の子がやっていた、 
左手で後頭部の髪をやたら触る仕草は、 
偶然にも、僕から恋人に伝染った癖の一つだった。 

なんだか、すごく懐かしい感じがしたね。 



116 :名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 18:59:52.07 ID:JuWNwpCZ0
彼女が顔を上げたとき、僕らの目が合った。 
その一瞬で、どうしてか、僕は彼女に関して、 
色んなことが分かっちゃったんだ。 

その一。彼女は僕の代役に恋している。 
限りなく似たような感情を抱いていると、 
目を見ただけで、分かるものなんだよ。 

その二。彼女は僕の元恋人に嫉妬している。 
たしかに、思いを寄せている人間と 
あれだけ親密にされたら、そうもなるよね。 

その三。彼女には”一周目”の記憶がある。 



118 :名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 19:10:35.94 ID:JuWNwpCZ0
何ていうかさ、「やり直しにおける失敗」の 
スペシャリストである僕から言わせるとね、 
二周目で失敗した人間に特有の感情があるんだ。 
隣にいる女の子から、僕はそれを感じ取ったんだよ。 

そんでさ――これについては最初から 
説明しておくべきだったんだろうけどさ、 
実を言うと、僕が持つ一周目の記憶には、 
いくらか致命的な欠陥があったんだ。 



119 :名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 19:18:14.75 ID:JuWNwpCZ0
それは、「思い出し方に制限がかかっている」ってこと。 
自分はこういう特徴の人間とこういう関係がある、 
みたいなことはしっかり覚えてたんだけど、 
実際の名前、顔、声みたいな具体的情報は、 
いくら思い出そうとしてもはっきりしなかったんだ。 

「表情が豊か」とか「日焼けしている」とか、 
「大人しそうな名前」とか「目つきが悪い」とか、 
そういう風には思い出せるのに、だよ。 

でも、二周目の僕は、そのことを軽視していたんだ。 
一周目の再現をするだけの二周目においては、 
記憶に制限があっても、さほど支障はないように見えたからね。 
それに、記憶ってのは、多かれ少なかれ、 
はじめからそういう不確かな性質があるものだから。 



121 :名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 19:25:47.34 ID:JuWNwpCZ0
さて、僕の言わんとすることはもう分かると思うけど、 
以上の情報をまとめると、導き出される結論は一つ。 

隣にいる女の子は、僕のかつての恋人が、 
人生のやり直しに”失敗”した姿なんだよ。 

そう。席を奪われたのは、僕だけじゃなかったんだ。 
僕が中学の頃に告白したのは見当違いの相手で、 
殺人を犯してまで取り戻そうとした恋人は人違いで、 
僕がいつも影から見ていた二人は、両方とも代役だったんだ。 

そして僕の本物の恋人は、いつだって傍にいたんだよ。 



145 :名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 20:22:20.49 ID:0NqI+JUK0
かつての恋人が自分と同じような状況にあって、 
同じ苦悩を抱えていると知ったとき、 
けれどもね、僕は喜びはしなかったんだ。 
いや、むしろ絶望を深めたと言ってもいい。 

どうしてかと言うとね、たとえ隣にいるその子が、 
僕の本当の恋人だったとしてもね、今僕が好きなのは、 
より一周目の彼女に近い、”偽物”の方なんだよ。 

僕が気にするのは「オリジナルかどうか」じゃなくて、 
「一周目と同じ気持ちにさせてくれるかどうか」だったんだ。 
変わっちまった本物には、もはや興味がないんだな。 



147 :名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 20:34:36.70 ID:0NqI+JUK0
それに、勘違いも十年も続けば、それはもう 
本人にとっては修正しようがない事実なんだよ。 

そして、僕の求める”偽物”の子が、そもそも僕とは 
赤の他人だったということが分かって、僕はがっかりした。 
こうなると、彼女と僕が結ばれる根拠は、いよいよ無いじゃないか。 
僕が信じてきた赤い糸は、広場にいる彼女じゃなくて、 
隣で頭を抱えている女の子と繋がっていたわけだからね。 

しかし、見れば見るほど、本物の元恋人は、 
僕と似たような変化を遂げていて、驚いたね。 
二周目の自分を客観的に見てる気分だったよ。 
あんまり良い気分じゃなかったな。 



148 :名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 20:44:49.87 ID:0NqI+JUK0
そういうわけで、運命の再会とはいかなかった。 

寂しそうな目で広場を見つめる本物の元恋人は、 
隣に誰か、温かい存在を必要としているように見えた。 
うん、今度ばかりは、勘違いじゃなかったと思うよ。 

けれども僕は、彼女に話しかけず、店を出た。 
僕が必要としているのが彼女でないように、 
彼女が必要としているのも、僕の代役の方だろうからね。 



149 :名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 20:58:45.16 ID:0NqI+JUK0
僕は街を当てもなく歩いた。そうしたい気分だったんだ。 
どこもかしこもクリスマスムードでむなしくなったけど、 
とことんそういう気分に浸りたい気分でもあったな。 

考えてみると、色んなことが馬鹿馬鹿しかったね。 
そもそも僕は、あの代役を殺す気でいたわけだけど、 
本当にそんなことができる気でいたんだろうか? 

そして奇跡的にそれに成功したところで、 
その相手の子は、今の僕を好きになると、 
本気で考えていたんだろうか? 
だとしたら、頭がおかしかったんだろうな。 



150 :名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 21:02:38.45 ID:0NqI+JUK0
そういうわけで、僕はドッペルゲンガーの 
殺害計画を諦めたわけなんだけどさ、 
願いってのは、腹立たしいことに、 
願うのをやめた頃に叶うものなんだ。 



154 :名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 21:50:20.71 ID:0NqI+JUK0
僕は頭をからっぽにしたかったんだ。 
今まで以上に、色んなことを忘れたかった。 
尾行する必要もなくなって、時間も余っていた。 
それで、目についた短期アルバイトに、 
片っ端から応募することにしたんだ。 

毎日夜遅くにくたくたになって帰宅する僕を見て、 
五回目の家出をしてきていた妹は、 
「おにいちゃん、恋人でも出来た?」と聞いてきた。 
今一番聞きたくない言葉だったね、まったく。 

そんでね、どうせ予定もないのだからと、 
年末までアルバイトを詰め込んだ僕だったけど、 
ろくに内容の説明も読まなかったせいで、 
クリスマス当日に、恋人の集まるデパートで、 
抽選会の係をすることになっちまったんだよ。 



157 :名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 22:06:06.26 ID:0NqI+JUK0
浮かない気持ちで現地に集合すると、なんとね、 
思いもよらない人間がバイトに来ていたんだ。 

そう、本物の方の、僕の元恋人さ。 
うん、実に気まずい感じだったよ。 
やることも考えることも一緒なんだね、僕たちは。 

向こうは僕の顔を見ると、軽く頭を下げた。 
僕も同じように返したけど、この分だと、相変わらず、 
彼女は僕の正体に気付いていないみたいだった。 

僕たちは知り合いと言うことでペアにされて、 
暑苦しいサンタのコスチュームを着せられて、 
浮かれた夫婦やカップルなんかを相手にした。 
かつては僕たちも向こうの人間だったんだけどな。 

思えば、高校時代も、友達のいない僕たちは、 
他に組む相手がいないときなんかに、 
こうやって二人気まずく作業していたんだよ。 
それを思うとおかしかったね。 



158 :名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 22:25:14.99 ID:0NqI+JUK0
休憩時間になると、僕は元恋人を放って、 
一人で外に煙草を吸いに行ったんだ。 
彼女といると、過ぎたことばかり考えてしまうからね。 

何気なく駐車場の様子を眺めていると、 
見覚えのある青い軽自動車が入ってくるのが見えた。 

それは僕がストーカー時代によく目にした車なんだ。 
つまり、代役二人が乗っている車というわけさ。 
結構めずらしい車種だったから、すぐに分かった。 

そういえば、二十歳のクリスマスの夜、 
僕たちはにここを訪れたんだっけ。 



162 :名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 22:41:02.54 ID:0NqI+JUK0
休憩が終わってさ、再び抽選会場に戻って、 
まあこのあと起こることは予想できると思うけど、 
四人は、そこで初めて一堂に会することになるんだ。 

いつも以上に幸せそうなその二人は、まさかその幸せが、 
目の前にいる二人の冴えないサンタクロースによる 
クリスマスプレゼントだったとは、思いもしなかっただろうな。 

本物の元恋人の方を見ると、やっぱり、 
僕の代役の方を見て、辛そうな目をしてたな。 
多分僕も、そういう目をしていたんだと思うよ。 



164 :名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 22:50:59.76 ID:0NqI+JUK0
代役の二人たちが行ってしまってから、僕はしばらく、 
彼らがこれからどう過ごすのかを思い出していた。 
隣にいる元恋人も、同じことを思い出していたんじゃないかな。 
こんなに気分の悪いことって、そうそうないよ。 

抽選会場の傍には家電コーナーがあって、 
僕は気を逸らすために、そこに置いてある 
大型テレビの映像を眺めることにした。 

なんてことはないニュース映像が流れていて、 
たまに駅前のイルミネーションが映されたりして、 
――そして僕は突然、さっきの二人が、 
これから死ぬ運命にあるってことに気付いたんだ。 



166 :名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 22:59:22.49 ID:0NqI+JUK0
人間の運ってものは、長い目で見れば、 
釣り合いの取れてるものなのかもしれないな。 

その考え方は、大抵は運のない人間が 
自分を慰めるために使う言葉なんだけど、 
この時ばかりは、そう思わずにはいられなかったよ。 

不思議と、どんな感情も湧いてこなかったね。 
そうか、あの二人は死んでしまうのか。それだけ。 

どちらかと言えば、喜ぶべきことだったと思うよ。 
あの男のことが憎いことには変わりがないし、 
あの女の子はどうせ僕のものにはならないんだし。 

そう、手に入らないものなら、最初っからない方が幸せなんだ。 



179 :名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 23:39:34.95 ID:0NqI+JUK0
でも、次の瞬間には、僕はアルバイトを放り出して、 
かつての恋人の手を取って走り出していた。 
いやあ、自分でも意味わかんなかったなあ。 

でも仕方ない話なんだ。これからすることが、 
一人でどうにかできるものなのか分からなかったし、 
話を信じて協力してくれるとしたら、彼女だけだろうからね。 

デパートの中を駆け抜けていくサンタ二人を見て、 
子供なんかは僕らを指差して騒いでいた。 
実際、奇妙な光景だったと思うよ。 

彼女が何も言わずについてきたのはさ、握られた手に、 
どこか懐かしいものを感じたからだと思うんだよ。 
なんでかっていうと、僕がまさにそのように感じたから。 



184 :名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 23:50:11.30 ID:0NqI+JUK0
外に出ると、既に吹雪になりかけていた。 
僕は車に乗り込んでエンジンをかけた。 

珍しく僕の頭は冴えわたっていたんだ。 
さっき見たニュースの進行具合から言って、 
間に合うかどうかの瀬戸際だったな。 

そんな緊迫した状況なのに、一方で僕は、 
おかしくて仕方がなかったんだ。 

自分が自分らしくない行動に出るのってさ、 
多分人生で起こることの中で、一番面白いんだよ。 
二周目の人生を主にそれに悩まされてきた僕だけど、 
でもやっぱり、人が「らしくない」ことを出来るのって、 
何かに対して一矢報いたような気がして、気持ちがよかったね。 



188 :名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 23:59:52.96 ID:0NqI+JUK0
「二十歳のクリスマスで、ひどい雪の日だったな」 
車を飛ばしながら、僕は助手席の彼女に言った。 

「覚えてるかな? プレゼントを渡しあった僕たちは、 
紅茶を飲みながら、テレビを見ていたんだ。 
わざとヒーターはつけないで、二人で毛布を被ってさ。 
ロウソクの火でわざわざ暖まったりして……、 
そういうのが楽しかったんだ、その頃の僕たちは」 

彼女は目を見開いて、僕の方を見つめる。 
しかし彼女が何か言う前に、僕は先を続ける。 



190 :名も無き被検体774号+:2012/10/22(月) 00:07:12.91 ID:T7AA0Ab80
「テレビでは事故のニュースがやってた。というのも、 
あまりに雪がひどくて、その夜、一部で停電が起きたんだよ。 

それはそれでロマンチックではあるんだけどさ、 
場所によっては信号までつかなくなっちゃって、 
吹雪で視界も悪くて、案の定、痛ましい事故が起きるんだ。 

そのとき僕らが聴いてたCDは『レノン・レジェンド』で、 
ちょうど『スタンド・バイ・ミー』が終わって、 
『スターティング・オーヴァー』が始まった辺りだったな。 
それくらい鮮明に覚えてるよ。クリスマスに死ぬなんて、 
運の悪い人間もいるもんだなって思ってさ」 



193 :名も無き被検体774号+:2012/10/22(月) 00:15:04.18 ID:T7AA0Ab80
「ニュースの映像では、数台の車がぐちゃぐちゃになってて、 
――その中に、青い軽自動車があったことを覚えてるんだ。 
実を言うとそれは、二周目の僕にとっては、馴染み深い物でね。 
何せ、自分の役割を奪った男が乗っていた車だったから」 
そこまで言って、僕は一度、横目に時計を見る。 

「このまま放っておけば、同じ事故が起きて、彼らは命を落とす。 
それは本当なら、僕にとっては望ましい展開のはずなんだ」 

彼女は何も言わず、黙って話を聞いていた。 
視界の端で頷く彼女に、僕はまた懐かしい感じを覚えたな。 

「でもさ」と僕は言う。 
「そういう悲劇を見逃すには、今日はあまりにもめでたい日だ。 
それに僕は、一周目の人生を愛しているのと同じように、 
それを再現してる彼らのことも、どっか愛してるところがあるんだよ。 
僕も、たまには、二周目らしいところを見せてやろうと思う。 
一周目の反省や教訓を活かして、もっと優れた二周目を目指すんだ」 



196 :名も無き被検体774号+:2012/10/22(月) 00:27:18.60 ID:T7AA0Ab80
事故現場に到着した僕らは、停電に備えて待機した。 
彼女はおそるおそる僕の肩を叩いて、聞く。 
「これまでにも、こうやって、人を助けたりしてきたの?」 
相変わらず、いいところに目をつけるんだよな。 

「いや。これが初めてだね」と僕は答える。 
「だから、今やってるのは、あんまり良くないことだと思うよ。 
本来、数えきれないくらいの命を救えたはずの人間が、 
いまさら自分の助けたい相手だけ助けるなんてさ」 

「そっか……私も、これが初めて」と彼女は言う。 
「私、二周目に入ってからも、一周目の記憶を使って 
何かしようとしたことは、一度もなかったんだ。 
今はこんな風になっちゃったけど、本当は、 
私、前の人生を、そのまま繰り返そうと――」 

「僕もそうさ」被せるように僕は言った。 



199 :名も無き被検体774号+:2012/10/22(月) 00:33:07.89 ID:T7AA0Ab80
「あのさ」と彼女は言った。 
「停電で、見えなくなっちゃう前にね、 
最後に一つだけ、確認させて欲しいんだ」 

「何を?」と僕が言い終える前には、 
彼女は背伸びして、僕の頬に唇を当てていた。 
「ごめんね」と彼女は言った。「それだけ」 

確かに、確認はそれだけで十分だったんだ。 
それだけで、色んなことを、僕は思い出せた。 

僕はずいぶん表面的なことに捉われていたんだろうな。 
二周目における記憶の制限は、僕の考え方にまで、 
致命的な欠陥を与えてしまっていたようなんだ。 
言葉にできない感覚を、僕は軽視し過ぎていたんだよ。 
このことにしたって、口で言っても伝わんないんだろうけどね。 

「こんなに傍にいたんだね」、目を伏せて彼女はそう言った。 
彼女が振り返るのとほぼ同時に、辺りの灯りが一斉に消えた。 



200 :名も無き被検体774号+:2012/10/22(月) 00:42:03.35 ID:T7AA0Ab80
それは実に馬鹿げた光景だったと思うよ。 
サンタクロース二人が袋から色んな灯りを出してさ、 
誘導棒を持って交通整理をし始めたんだから。 

用意した色とりどりの回転灯なんかは、見方によっては、 
クリスマスのイルミネーションに見えなくもなかったな。 
馬鹿みたいに沢山並べたんだよ、僕たち。 

しかも僕はその馬鹿らしさに当てられちゃって、 
窓を開けてねぎらいの言葉をくれたカップルとかに、 
何回か「メリークリスマス!」を言っちまったんだ。 

一番言いたくなかったはずの言葉なのにな。 
格好と寒さで頭がどうかしてたんだと思うよ。 

本当に酷い吹雪でさ、目を開けているのも辛かったし、 
無意識に奥歯を噛みしめちゃって、顎が痛くて、 
自分がどこまで服を着てるのかも分かんないくらい、 
体のあらゆるところが冷え切ってたね。 



201 :名も無き被検体774号+:2012/10/22(月) 00:47:52.28 ID:T7AA0Ab80
僕のやり方が正しかったかどうかは分からない。 
でも、結局、事故は一件も起こさずに済んだんだ。 

何回か僕たちの方が轢かれそうになったけど、 
まあ目立つ服装だったからね、何とか生き延びた。 
この日ばかりはサンタクロースの格好に感謝したね、 
これがジャックランタンとかだったら、間違いなく死んでたよ。 

そして、例の青い車が通り過ぎるのを、僕たちは見送った。 
かつての僕たちが通り過ぎていくのを見送ったんだ。 

最初っから最後まで、彼らはなんにも知らない。 
でも、それでいいんだと思うよ。 

それどころか、自分が助けられたということに 
彼らがまったく気付いていないことが、 
僕にとっては、たまらなく痛快だったんだ。 



202 :名も無き被検体774号+:2012/10/22(月) 00:53:02.12 ID:T7AA0Ab80
電気が復旧した頃には、僕たちの体は死体みたいに冷えて、 
風邪でも肺炎でもなんでも来いって感じだったね。 

どこかで暖まりたかったけど、既にどこの店も閉まっていて、 
携帯にはバイト先から着信が何件もきていて、 
雪にタイヤをとられて車が動かなくなって、 
どっから手を付けていいのか分からないような状況だったな。 

けれどもそのとき、時計の針が、十二時をさしたんだ。 
そう、この瞬間、繰り返しは終わりを告げる。 

ここから先は、僕たちも完全に知らない世界だ。 

本物の元恋人は、歯をがちがち言わせて震えながら、 
消えそうな声で、「さむいね」と僕に微笑みかけた。 
それだけ喋るので精いっぱいだったんだと思う。 

思えばさ、ここ十年、僕は寒さを分かち合う相手さえいなかったんだ。 



204 :名も無き被検体774号+:2012/10/22(月) 01:01:16.11 ID:T7AA0Ab80
なんでかな。その時ふいに、僕は幸せな気持ちになったんだ。 
代役の二人は今後も僕らの席に座り続けるだろうし、 
後期の単位は既に取り返しがつかないし、友達はいないし、 
おまけに今すぐ凍えて死にそうで――けれども、幸せだったんだ。 

これからは、何があっても、大抵のことは平気な気がしたんだ。 
僕たちなら、それなりに上手くやっていけそうな気がした。 
それはいかにも根拠のない自信だったけど、 
根拠がない自信ほど、強力なものもないんだよ。 

混乱してたのかもしれないけど、ひょっとすると、そのときの僕は、 
一周目の二十歳のクリスマスより、幸せだったかもしれない。 
だとしたら、それって、本当に本当にすごいことだよ。 

十年ぶりの、ハッピークリスマスってやつだったんだ。 



205 :名も無き被検体774号+:2012/10/22(月) 01:05:02.90 ID:T7AA0Ab80
朝方に帰宅した僕は、眠気もまったくなくて、 
なんだか生まれ変わったような気分だった。 

僕が恋人から貰ったプレゼントをごそごそやっていたせいで、 
僕のベッドで寝ていた妹が、目を覚ました。 
眠たげな目で、枕元にある僕からのプレゼントを眺めて、 
少し遅れて、「おおー」と満更でもなさそうに言った。 
寝起きの妹って、ちょっとだけ一周目の面影があるんだよ。 

僕はベッドに腰掛け、「なあ」と話しかけた。 

「兄ちゃんは、十年後から戻ってきたんだよ」 

妹は寝ぼけた顔で、やっぱり、「おかえりー」と笑った。 
僕はそれが大のお気に入りだったから、 
「ただいま」と言って妹の頭を撫でた。 
妹は不服そうに僕の顔を見つめたけど、 
内心、そんなに悪い気はしていないみたいだった。 



208 :名も無き被検体774号+:2012/10/22(月) 01:10:14.22 ID:T7AA0Ab80
「兄ちゃんは、十年後から戻ってきてたんだ。 
僕は十歳から二十歳の人生を、もう一度やり直したのさ。 

そのときの僕には、これから自分が犯す過ちだとか、 
本当にやるべきことというのが、分かったんだ。 
なろうと思えば、神童にだって、予言者にだってなれた。 

でも、僕はなにひとつ変える気がなかったんだ。 
前と同じ人生を送られれば、それだけで十分だったからね。 

しかし僕は、一周目の再現に失敗してしまったんだ。 
周りの幸せだったはずの人たちにも、悪い影響を与えてしまった。 
――ただ、だからこそ、僕は知ってるんだよ。 

僕たちは、もっとまともになれるはずだったってことを。 
微妙な違いで人は変わるし、変われるんだってことを。 

ちょっと歯車がずれて、こんな風にはなってしまったけれど、 
それは些細な違いであって、僕らがまともになれない理由はないはずなんだ。 
だからさ、もう一度、あの日々を取り戻そう。そろそろ、反撃開始と行こうじゃないか」 

プレゼントを抱えた妹は、やっぱり、「よくわかんない」と答えた。 
いずれわかるさ、と僕は言った。