憧れの1人暮らしで隣人に恋した【その2】 
憧れの1人暮らしで隣人に恋した【その3】 
憧れの1人暮らしで隣人に恋した【その4】 
憧れの1人暮らしで隣人に恋した【その5】 
憧れの1人暮らしで隣人に恋した【その6】 
憧れの1人暮らしで隣人に恋した【その7】 

422 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 13:10:58.06 ID:cj6KJBAo
季節は梅雨を終えて、夏・・・。
8月15日。
まりあの誕生日を迎えても、俺の鬱は一向に改善されていなかった。

毎日自室に閉じこもって、ボーッとしている日々。

TVはあまり観なかった。
どうしても、仕事を連想してしまうからだ。

そして・・・。

まりあからの返事も、未だにきていなかった。

「終戦まりあ記念日か・・・。」

去年は楽しかったよな。

8月15日・・・。

色紙のリングなんか作っちゃって

でも、主役が来ないんだよ。

笑っちゃうぜ。


427 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 13:12:43.92 ID:cj6KJBAo
それを知らずに、油田と渡辺はケーキとチキンを買ってくるしさ。

しかも油田は
アリ伝説DXとかいう、不気味なプレゼント用意してんの。


・・・・・・・・・。


あの日だよな・・・。

俺とまりあが付き合った日も・・・。

もう1年も経っちゃった。

たった1年で、廃人になっちゃった。

まりあ・・・。

21歳の誕生日おめでとう。

俺は心の中で、まりあの誕生日を祝った。

431 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 13:14:49.94 ID:cj6KJBAo
鬱病というのは、本当に恐ろしい。

焦れば焦るほど、仕事が出来ない。

おふくろに心配を掛けたくない!
そう強く思えば思うほど、仕事が出来ない。

早々に病院へ行けばいいのだが
おふくろの悲しむ姿を想像して行けない。

まさに地獄の、無限ループである。

そんな俺を、おふくろは何も言わずに
ただ見守っていてくれた。

435 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/06/30(月) 13:15:59.47 ID:216y.Xko
カーチャン・・・J('ー`)し

436 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/06/30(月) 13:16:03.12 ID:aOHDIo.0
うぅぅ~、鬱経験者の俺は痛い程わかるぜ!!
これは鬱病になった者にしかわからない苦しみ!!がんばれ!!


443 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 13:20:19.46 ID:cj6KJBAo
カレンダーは、9月半ばに入っていた。

部屋の窓を開けると、秋の香りが漂っていた。

それは、いつかまりあに教えてもらった
キンモクセイの香りだった。

俺が感傷的になっていた
その時、携帯がブルブルと振動した。

着信だ!誰だろう?

携帯画面に表示されているその文字は

「川田さん」であった。

すごい早さで、脈打つのが分かる。
心臓がバクバクする・・・。

川田さんが・・・。なんで?

俺は不義理なことに、会社を辞めてから
川田さんに一切連絡をしていなかった。

申し訳ない気持ちはあるのだが
どうしても連絡が出来なかった。

仕事関係の人間と話をすることを
心が頑なに拒否していた。

俺は迷った。

出るべきか・・・?
逃げるべききか・・・?


456 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 13:26:24.59 ID:cj6KJBAo
俺はソロソロと携帯を手に取って、受話ボタンを押した。

心の奥底にしまい込まれていた
「師匠への感謝の念」が俺の心を動かした。

この人からは・・・。

この人だけは・・・・・・。

逃げちゃいけないんだ!

「も・・・もしもし」

声が震えている。

退社後、仕事関係の人間と話をするのは
渡辺以外で、これが初めてであった。

激務を抱えていた時の情景が頭をよぎる。

「おー!二宮。俺だよ」

久しぶりに聞く川田さんの声。
いつもと変わらず、陽気なその声・・・。

「川田さん!その節は申し訳ありませんでしたっ!!」

俺は川田さんに謝った。


463 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 13:29:35.03 ID:cj6KJBAo
しかし川田さんは、とぼけた声で
「なにが~??」
と言っている。

「お世話になった、川田さんに対して
会社を辞めた報告を怠ってしまい、誠に申し訳ありませんでした。」

俺は携帯を握りしめながら、頭を下げていた。

川田さんは数秒間、考え込むように間を取ると。
「報告なんかいらないよ。だって俺、あの会社の人間じゃねーもん。」
と言った。

「そんなことより・・・」
川田さんが続けて言葉を発する。

「お前の有給は、もう終わりだよ!」

???

俺は会社を辞めたんだ。
有給休暇をとっていたわけじゃない。

「明日から出勤な!俺の事務所に。」

川田さん・・・。


489 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 13:32:36.45 ID:cj6KJBAo
「でも・・・でも俺・・・。映像の仕事は・・・。」

俺の心の中で根付いてしまった鬱が
川田さんの温情を、突っぱねようとする。

川田さんは、そんな俺の鬱もお構いなしに
「バカヤロー。
お前なんかに恐ろしくて、映像の仕事なんかさせられるかよ。」

それじゃなぜ・・・?

「お前の仕事は、今も昔も俺とキャバ行くことだろが!」

涙が溢れてきた。
心の奥底に眠っていた、熱い感情が沸々と湧き上がってくる。

「ぅぅぅっっ・・・。分かりました。
明日・・・。事務所に行かせていただきます・・・。」

ずっとずっと、真っ暗闇の中、1人彷徨っていた俺。
そんな俺に、僅かな光が差し込んできた瞬間であった。


510 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 13:37:19.82 ID:cj6KJBAo
次の日、俺は川田さんの事務所に出掛けて行った。

家を出る時、おふくろに声を掛けた。
「おふくろ。ちょっと出てくるね。」

「どこに行くんだい?」
数ヶ月間、家から一歩も出なかった俺に対して
おふくろは、少し驚いた表情を見せた。

「んーー。仕事」
俺はそう答えた。

そんな俺の言葉に対して、おふくろは少し嬉しそうに
「そうかい。気をつけて行っておいで!」
と言って俺を送り出してくれた。

地面を踏みしめるのにも違和感があった。
そして外の空気がやけに新鮮である。

川田さんの事務所まで、電車を乗り継ぐ。
電車に揺られていることが、日常とかけ離れた行為に思えた。

「ここか・・・。」
川田さんの事務所の場所は、以前に聞いていた。
しかし訪ねるのは、初めてであった。

久しぶりに会う川田さん。
どんな顔をして会えばいいのだろう?

俺は少し緊張していた。

「失礼します。」そう言って俺は事務所のドアを開けた。


525 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 13:40:47.48 ID:cj6KJBAo
少し狭いが、小奇麗な事務所であった。

その1番奥で、川田さんはパソコンに向かって
なにやら作業をしている様子だ。

俺に気づいた川田さんは
「おう!二宮~~。久しぶりだな!」
そう言って俺に近づいて来た。

「あ・・・。川田さん。お仕事続けて下さい!」
俺は慌ててそう言った。

「そうか?すまんな。ちょっと急ぎの仕事があってなぁ。
ちょっと待っててくれや。適当にその辺に座っててくれ。」
そう言って川田さんは、デスクに戻って仕事を再開した。

俺は近くのデスクに座って、川田さんが仕事を終えるのを待った。
そのデスクには、ある番組の台本が置かれていた。

その台本を手に取って、そっと中身を見た。
台本なんて、何ヶ月ぶりに見るんだろう・・・。

一瞬、強烈な吐き気がした。
まだダメだ!心が映像業界を強く拒否しているのが分かる。


532 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 13:43:51.03 ID:cj6KJBAo
その時川田さんが、パソコン画面を見ながら話しかけてきた。
「ったくよぉ。毎日毎日忙しくって嫌になるぜ・・・。」

「は・・・はい・・・。」

「金が貯まって仕方ないんだわ。こう仕事が忙しいとよ・・・。」

「・・・・・・。」

「ちょっとは貧乏な青年に分けてやらねーとなぁ。金」

川田さん・・・。

嘘だ。そんな余裕がある訳がない。
会社を興したのだって最近である。

いくら今までの地盤があるとはいえ
金に余裕があるはずはない。

今だって会社を軌道に乗せるために
安くてやりたくもない仕事をやっているに違いない。

「おっしゃ!!終わったぜーーー!!ちょっと早いけど飲みいくぞ!!」

川田さんは、俺を連れ出して飲み屋に向かった。

最後には潰されてしまったけど
仕事が俺に残してくれた財産は、川田さんだったんだ。

仕事がこの人に引き合わせてくれた運命に、俺は感謝した。


708 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 17:13:04.23 ID:cj6KJBAo
その日から俺は、毎日川田さんの事務所に顔を出した。
時間はフレックス制である。

川田さんは、いかにも会社くさいルールを作るのが
大嫌いな人であった。

やることが無いなら来るな!
あるなら徹夜でもなんでもしろ!

実に分かり易い。

1ヶ月の間
川田さんは俺に、一切映像の仕事はさせなかった。

その代わり俺を連れて、毎晩飲みに繰り出した。

よく毎晩、体がもつな・・・。
大丈夫か?川田さん・・・。

俺が川田さんの体を、心配するほどであった。

しかしこの人にとって、酒は栄養ドリンクみたいな物だ。
飲めば飲むほど、疲れが取れるらしい。

そんな俺に、川田さんは給料までくれた。
しかもそれは、前の会社と同額の給料である。

俺は情けなかった・・・。

なにか川田さんの役に立ちたかった。
しかしどうしても、映像の仕事だけは出来ない。

そこで俺は昼間事務所に行くと、コピーや掃除、お茶汲みなどをした。
まるでOLのようだ。

これが俺なりに出来る、精一杯の仕事であった。

悔しいが・・・。


724 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 17:16:44.84 ID:cj6KJBAo
10月末のある日。
俺は事務所に飾ってある、お花の水変えをしていた。

「二宮~。ちょっと来い。」
川田さんに呼ばれた。

「はい。なんですか?」

「いま非常につまらん仕事を抱えて困っている。」

「はぁ・・・。」

「バカなカップルが、披露宴で上演するVを作りたいそうだ。」


川田さんの話のでは、新婚カップルが
安室奈美恵の CAN YOU CELEBRATE? をBGMにして
ドラマを作りたいそうだ。

内容は2人が出会って、遊園地でデートをして
最後は抱き合って終わる。

それを披露宴で上映して、来賓者の笑いを取りたいらしい。

正気の沙汰とは思えない、バカバカしい仕事である。


747 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 17:19:39.84 ID:cj6KJBAo
「俺はさぁー。一流のDじゃん?だからこんな仕事できないわけよ。分かる?」

「は・・・はぁ。」

「お前がやってくれたら・・・。助かるんだわ。」

川田さんの目を見る。
冗談っぽく話しているが、その目はマジである。

戻ってこい!
こっち側に戻ってこい!二宮!!

川田さんの目が、俺にそう訴えかけてきていた。

俺は腹をくくった!

「分かりました。やらせて下さい!その仕事。」

これが俺の転機となった。


776 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 17:23:44.16 ID:cj6KJBAo
次の日、俺と川田さんは
依頼主のカップルとの、打ち合わせに出掛けた。

依頼主の要望を聞く。

なるほど・・・。

早速、脳内で映像を想像して、組み立ててみる。
実にバカバカしい構成だが、少し面白そうである。

面白い・・・。

なんだこの感情は・・・?

映像を面白いと思っている自分がいた。

こんな感覚はいつ振りだろう・・・?

その時、川田さんが俺に聞いてきた。

「どうだ?二宮は何か意見があるか?」

こうすればもっと面白くなる!

こうすればもっとバカバカしくなる!

俺は一瞬で考えた演出プランを、依頼主に伝えた。

依頼主も俺の話を聞いて、笑いながら乗ってきた。


799 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 17:27:47.09 ID:cj6KJBAo
旦那は大喜びである。
「それはいいですねー。爆笑とれるぞ!」

奥さんも
「でも恥ずかしいよー!」等と言っているが
まんざらでも無さそうだ。

俺は打ち合わせを終えると
事務所に帰って、構成を練り直した。

それを書面にして行く。

番組やVPと比べれば、本当に小さな仕事だ。

でも構成を考えている俺は、仕事を楽しんでいた。

少しでも依頼主に、喜んでもらいたい!
少しでも披露宴にやって来た、客を笑わせたい!

それが俺のモチベーションになっていた。

それからは毎日、夜中まで残って
夢中で台本を作った。

本来ならこんな台本は、3時間もあれば出来る。

しかし俺は、丁寧に丁寧に台本を書いていった。


827 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 17:31:25.92 ID:cj6KJBAo
川田さんが「二宮ーーー!!飲みくり出すぞ!!」と誘っても
俺は「すみません。台本書かせて下さい!」と言って断った。

川田さんは「寂ちぃぃぃ・・・。」と言って、事務所から出て行った。

この仕事だ!!

この仕事で俺は・・・。

もう一度、再起するんだ!!

俺の決意は、確固たるものになっていた。


856 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 17:36:15.77 ID:cj6KJBAo
披露宴会場の、照明がスッと落ちた。
いままで歓談を楽しんでいた、お客さんが黙り込む・・・。

俺の再起を賭けた作品が、スクリーンに映し出された。

たった40人程度の、視聴者しかいない。
番組とは、比べ物にならない少なさである。

俺は付き添ってくれた、川田さんと
会場の1番奥で、その光景を静かに見守っていた。

Vが進むに連れて、会場からは笑い声が出てきた。

あちこちから新郎新婦に対して、冷やかしの言葉が飛ぶ。
その度に、恥ずかしそうに笑う新郎新婦。

番組では視聴者の反応を、目の前で見ることは出来ない。

みんなが俺の創った映像で笑っている・・・。
それってこんなに、素晴らしいことなんだ・・・。


870 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 17:40:18.43 ID:cj6KJBAo
人に何かを伝えたくて入った、映像業界。

俺の映像は、たった40人の視聴者だけど

そのたった40人の視聴者に対して、確実に何かを伝えている。

クライマックスで、大爆笑が起きた。

それをきっかけにして、場内が明るくなった。
会場スタッフがスクリーンを片付け始める。

俺の再起作は、幕を閉じた。

その時、川田が言った。
「どうだ?二宮。映像っておもしれーだろ?」

俺はジッと正面をと見据えて言った。
「はい・・・。すごく面白いです!」


894 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 17:45:45.23 ID:cj6KJBAo
最終章 まりあへ

2007年の正月1通の年賀状が来た。 
その年賀状には可愛い文字でこう書かれていた。 

「明けましておめでとうございます。来年悟くんと結婚します。」 

この年賀状の差出人は俺の元カノまりあだ。 

その端には、小さな字でこう書かれていた。

「式は10月の予定です・・・。これがあの日の答えです。」

俺は自宅のポストから取り出した、その年賀状を鞄に入れて駅へ走って行った。

1月5日。今日は仕事初めである。
旧住所から転送されてきた、その年賀状は律儀に俺の実家へ届いた。


942 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 17:50:41.48 ID:cj6KJBAo
そっか・・・。

結婚か・・・。

大学を卒業して、すぐに結婚するだなんて
それくらい悟が好きなんだな・・・。

まりあ・・・。悟・・・。

結婚おめでとう!

俺も頑張るからな!

やっと仕事が出来るようになったんだ。

小さい仕事だけど

少しずつ・・・。

少しずつ・・・・・。

俺の中で映像を創りたい!っていう気持ちが、沸き起こってきてるんだ!

俺はやっぱり映像が好きなんだ!


971 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 17:54:19.27 ID:cj6KJBAo
あの日の、披露宴のVを境にして
俺は徐々に、映像の仕事へ復帰していった。

川田さんも、俺の精神状態を見極めつつ
俺に出来そうな、仕事を割り振ってくれた。

立ち直るのには、何度も葛藤があったけど
その度に川田さんが、俺を支えてくれた。

そしておふくろが、俺を支えてくれた。

俺の実家と、悟の実家は近所である。

さすがに正月くらいは、顔を会わす覚悟をしていたが・・・。

向こうが俺を避けているのか
ニアミスなのか・・・?

悟と会うことは、全くなかった。

春には、俺はほぼ元通りの姿に戻っていた。


30 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[]:2008/06/30(月) 17:58:43.04 ID:cj6KJBAo
2007年こそが、本当に勝負の年である。
俺は必死になって仕事をした。

しかし過去の教訓を生かして
オーバーワークにだけは気をつけた。

自分のキャパシティを知ろう!
それが社会人として
俺が学ぶべき、最初の仕事なのかもしれない。

8月15日
3度目の終戦まりあ記念日も、俺は仕事をしていた。

川田さんや、他のスタッフは、お盆休みを取っていた。

俺も特に仕事は無かったが、出社していた。
なぜかこの日だけは、家にいたくなかったのだ。

会社の窓から、夕暮れを見つめながら思った。

まりあ・・・。22歳の誕生日おめでとう!
俺と初めて出会った時、まりあはまだ19歳だったよな・・・。

もう随分と、時間が経ってしまったね。


63 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[]:2008/06/30(月) 18:03:00.49 ID:cj6KJBAo
その時、まりあが昔俺に教えてくれた、将来の夢を思い出した。

「光輝くん。私ってどんな仕事が向いていると思う?」

「うーん。カレー屋かな?やっぱり」
俺は冗談でそう答えた。

まりあは少し、すねた感じで
「カレー屋さんはバイトで十分です!私ね・・・。保母さんになりたいの」

そうか・・・。
まりあは子供が好きそうであった。
いかにもまりあらしい仕事である。

「夢が叶うといいね。」

「うん。私がんばるよ!!」
その時の、まりあの笑顔を思い出す。

夢が叶うといいな。

悟・・・。まりあを大切にしてやってくれ。
俺の何倍も何十倍もな!


終戦まりあ記念日を
心の中でお祝いするのは、今年で最後だ!

最後にするね・・・。まりあ・・・。

俺は自分のデスクに戻って、仕事を再開した。


99 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[]:2008/06/30(月) 18:08:18.92 ID:cj6KJBAo
2007年は、俺にとっても必死であったが
みんなも必死で、生きていた。

川田さんは会社を大きくするために、必死で営業をした。
プライドが高いあの川田さんが、仕事欲しさに頭を下げまくっていた。

渡辺も必死であった。
カメラマンになるために、休みもろくに取らず仕事をしていた。
俺は過去の自分の経験から、内心ドキドキしながら応援した。

そして油田も必死だった。
就職活動でクタクタになっている様子である。
たまに俺に電話をしてきては、泣き言をほざいていた。

それでも就職は決まらなかった。
少し高望みしすぎじゃないか?お前は・・・。

まりあと悟の状況は、全く分からなかった。

それでも、油田と渡辺も
まりあと悟が、結婚することは知っていた。

まりあは、あの2人にも年賀状で知らせたようだ。

2007年は、すごい早さで過ぎていった。


126 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[]:2008/06/30(月) 18:13:32.30 ID:cj6KJBAo
そして2008年。
今年である。

今年は、まりあからの年賀状が届くことはなかった。

きっと悟と2人で幸せにしているさ・・・。

おふくろは俺と悟が、こんな関係になってしまったことを
薄々感づいている様子だ。

悟に関する話題は、一切振ってこなかった。

俺はもう平気なんだけどね・・・。

いまバッタリ悟に会ったとしても
「おう!元気にしてた?」と声を掛ける自信がある。

俺は今年の正月。
意味もなく、悟の実家の前をブラブラしていた。

今年は実家に、帰っているかも・・・?

どうせいつか会うのだ。
こんなに実家が近いんのだ。
それなら早く顔を会わせてしまった方が楽になる。

しかし今年の正月も、悟に会うことは無かった。


156 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[]:2008/06/30(月) 18:18:22.96 ID:cj6KJBAo
悟はまだ、俺に会いたくないのかも知れないな。

今年は、飛躍の年にしよう!
去年は、転機の年だった。

川田さんと頑張って、事務所を少しでも大きくしよう!
俺は仕事に燃えていた。

俺はこの時、まだ気づいていなかった。

今年にも大きな、転機が訪れることを・・・。

俺とまりあに、大きな転機が訪れることを・・・。

685 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[]:2008/06/30(月) 19:07:22.22 ID:cj6KJBAo

3月になった。

春のポカポカとした、日差しが心地いい。
俺は駅のホームで、電車を待っていた。

納品の帰りである。
この後は、事務所に戻って、川田さんと合流をして
新しい仕事の、打ち合わせに出かける。

川田さんが会社興してから、その仕事は今までで1番大きな仕事になる。
俺と川田さんが、2人で演出をするのだ。

ディレクターと、ADの関係では無く
初めて対等な立場として、同じ舞台に立つ。

失敗は許されない!
今までの経験を、全て出し切るんだ!

その時、俺の携帯が鳴った。

油田である。

俺は電話に出た。


747 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[]:2008/06/30(月) 19:10:08.52 ID:cj6KJBAo
「もしもし。あぶちゃん。久しぶり~!」

「二宮さん!僕、今日卒業式だったんです!!」

「あっそ。おめでとさん。就職決まった?」

「就職浪人です・・・。いや!そんなことより!!!」

「なんだよ。なに興奮してんの?」

「今日卒業式で、まりあちゃんと、久しぶりに会ったんです!!」

まりあ・・・。

「彼女・・・。結婚取りやめたみたいですよ!!!」

え・・・。

結婚取りやめ・・・?

なんで・・・・・・?

「おい!油田!!理由はなんだ!?理由は!!??」

その時、ホームに電車が入ってきた。

クソッ!!うるさくて電話の音が聞き取れない!!



893 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[]:2008/06/30(月) 19:20:34.09 ID:cj6KJBAo
「それは・・・よく・・・分からない・・・んです。」

「ごめん油田!!電話切るね!!」

なんだ・・・?

一体どういうことなんだ・・・?

去年の正月から・・・。1年と3ヶ月・・・。

この間に、まりあと悟に何があったんだ・・・??

分からない・・・。

俺には全然分からない・・・。

いくら考えても想像がつかない・・・。

俺は再び携帯を握った。

このアドレスにメールを送るのは・・・。約2年ぶりだ。

まりあ・・・。

俺は、まりあにメールを送った。

「油田に聞きました!結婚取りやめの話。理由を教えて下さい!」

俺は駅の階段を、駆け下りた。

ここだと万一、電話が掛かってきた時にうるさい。

改札を飛び出し、少し静かなところで返信を待った。


59 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 19:28:51.74 ID:cj6KJBAo
まりあ・・・。

なんでなんだ??

悟となにがあったんだ??

電話でもメールでもいいから、返事をして来い!!

その瞬間、俺の携帯がピカピカと光った。

携帯の画面を見る。

「まりあ」

俺は慌てて、本文を見た。

意外な文章が、俺の目に飛び込んできた!

「勝手でごめんなさい。。。光輝くんに会いたいです。。。」

会いたい・・・??俺と・・・??

なんだ??

なにがあったんだ???

俺はすぐに、メールを返した。

「とりあえず、何があったのか教えて下さい!!」

今度の返信は、すぐに来た。

「光輝くんにとても会いたいです。。。待ってます。。。」

話にならない。

俺は電話に切り替えた。


237 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 19:38:21.74 ID:cj6KJBAo
しかし、いくら電話を掛けても全く出ない。

またしても、メールに切り替えた。

「どこで待ってますか?場所を教えて下さい!」

送信して5分以上が経過した。

しかし返信が来ない。

ちくしょーーー!!!

会社に戻らなければいけないんだよ。

今日は川田さんと、大切な打ち合わせに出かけるんだよ!!

理由だけでも知りたい!!

・・・・・・・・。

もうこの方法しか、残っていない!!

悟だ・・・。

アイツに聞くしかない!!

俺は悟の番号に、電話を掛けた。


343 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 19:45:57.96 ID:cj6KJBAo
しかしコール音は、鳴るものの
こっちも全く、電話には出ない。

俺は何度も掛け直した。

時間がねーんだよっ!!頼むから出てくれよっ!!

そして10回くらい掛け直してやっと

ガチャ・・・。
という音がした。

出た!!!

悟が電話に出た!!

「俺だ!!光輝だ!!」

悟は少し暗い声で
「ああ・・・。久しぶりだな」と言った。

そんな挨拶などどうでも良い。

「結婚が中止になったって聞いた。理由はなんなんだ?」
俺も若干、声のトーンを抑えた。
冷静に話そう・・・。冷静に・・・。

しかし悟は
そんな俺の言葉を、無視するかのように黙りこんだ。

時間が無いんだよ!!早く答えてくれ!!

「頼む悟・・・。教えてくれ・・・。」

俺は静かにそう呼びかけた。


488 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 19:56:10.29 ID:cj6KJBAo
「お前がまりあを・・・。振ったのか・・・??悟・・・。」

「・・・そうだ。」
やっと反応があった。

「なぜだ?まりあが好きなんだろ?なぜなんだ?教えてくれ・・・。」

俺は次の悟の、言葉を静かに待った。
話出すまで待つしかない様子だ。

「信用出来なくなった・・・。」
悟の声は更に暗くなっていた。

こんな悟の声は、今までに聞いたことが無い。

「どういうことなんだ?」
俺は更に問い詰めた。

「俺と彼女が付き合ってから・・・。
どれくらい経ったと思う・・・??」
俺に質問返しをしてきた。

知るか!!そんなこと!!

悟が次の言葉を吐き出した。

「ヤらせてくれないんだよ・・・。彼女・・・。」

え・・・??

そんな・・・理由で・・・。

そんな理由・・・なのか・・・??

結婚を取りやめる理由が・・・。

まさかそれなのか・・・?

頭の血管が、切れそうになった。


613 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 20:01:58.94 ID:cj6KJBAo
「結婚するまでダメだってさ・・・。笑っちゃうだろ・・・?」

・・・・・・・。

バカなのか??テメーは??

笑えるわけがねーーーーだろがぁぁぁぁーーーー!!

そんなクソみたいな理由で、結婚中止ってか!!??

あんまりザケたこと、抜かしてんじゃねーーーぞ!!!

完全にDQN時代の、俺に戻っていた。

「やっぱりテメーは、あん時ブチ殺すべきだったな・・・。」
俺は怒りに震える声でそう言った。

コイツはもう親友では無い。

「・・・・・・・・。」
悟が黙り込む。

「おいコラ!!テメー!!反応しろや!!」
こんな言葉がまだ出てくるなんて・・・。自分でもかなり驚いた。

もう何を言っても、悟は反応しなかった。

こんなヤツ相手にしていても仕方がない。

「テメー今度、実家に帰ってくる時は気ぃつけろや・・・。
うっかり俺に会ったら、半殺しにしてくれんぞ!」

そう言って電話を切った。


714 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 20:09:53.43 ID:cj6KJBAo
電話を切った後
メールセンターへ
新着メールが届いていないか、アクセスしてみた。

「新着メールはありません」の文字。

会いたいって言われても、どこに行けばいいんだよ!!

俺はこの後、大事な打ち合わせがあるんだよ・・・。

打ち合わせ・・・。

仕事と・・・。まりあ・・・。

またこの2つを天秤に掛けるのか・・・??

汗が出てくる。

まりあは心配である・・・。

でも今日の仕事は・・・。打ち合わせは・・・。
今までで1番大きな仕事なんだ・・・。

川田さんは以前、俺にこう言った。
「色恋沙汰ごときで、仕事をおろそかにしたら、許さない!」

もし俺がここで、まりあを選択したら。
俺こそ川田さんに、半殺しにされる・・・。

いや。そんなことで済めばまだいい。

ここでまりあを選択すれば
せっかく復帰したのに、もう映像の仕事ができないかもしれない・・・。


804 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 20:19:17.69 ID:cj6KJBAo
廃人からここまで立ち直るのに、どんだけ苦労をしたんだよ!!
師匠であり恩人である川田さんに、迷惑を掛けることができるかよ!!

2年前のあの時と同じで、仕事を選択すればいいんだよ!!

まりあはもう、元カノなんだよ!!
まりあもう、他人なんだよ!!

チクショーーーーー!!!!!!!!!!!!!!

俺は携帯を握りしめた。

そして電話を掛けた。

川田さんに!!

手が震えた・・・。

まりあや悟に、電話をするのと訳が違う・・・。

でも・・・。

やっぱり・・・。

やっぱり・・・。

やっぱりまりあが心配なんだ!!

俺は川田さんの、携帯へ電話を掛けた。


899 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 20:28:03.40 ID:cj6KJBAo
川田さんは、すぐに電話へ出た。

「おう!二宮。今どこだ~?」

俺は大きく息を、吸い込んだ。

「川田さん・・・。申し訳ありません・・・。」
もう後戻りは、出来ない。

「打ち合わせは・・・。川田さん1人で行ってもえらないでしょうか・・・?」
川田さんの反応がない・・・。

切れているのか・・・?
そりゃ切れて当然のことを、俺はいま言っている・・・。

「なんでだ?」
川田さんの声が、急に怖くなった。

俺は奥歯を噛み締めた・・・。
そして言った。

「申し訳ありません・・・。色恋沙汰です・・・。」

別にまりあと、ヨリを戻したいわけではない
でもこれは立派な、色恋沙汰であろう。

川田さんは
「二宮よぉ・・・」と低い声を出した。

獣が唸り上げるような声だ。


78 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 20:38:27.88 ID:cj6KJBAo
「すみません・・・。行かせて下さい。」
俺は静かな声で、もう1度お願いした。

川田さんの、反応を待った。
「二宮・・・。お前は急に、別の仕事が入ったんだ・・・。」

???

「今度局Pに会った時にはそう言え。ちゃんと口裏合わせろよ」

「ありがとうございます!!」
そう言って俺は川田さんの電話を切った。

ありがとうございます・・・。川田さん・・・。

まりあが待っている場所は分からない。
でもとにかく電車に乗り込んだ。

俺の冷静な部分が
「なにバカみたいなことやってんだ?ドラマじゃねーんだぞ」と訴えかけてくる。

しかしもう仕事は、断ってしまった。
こうなればせめて、まりあに会いたい。

会ってなにができるだろう?

全く何も分からない。
でも行くしかないよな・・・。

俺は電車に乗っている間も
まりあにメールを入れ続けた。

「場所を教えて下さい!」

同じ文章を、何度も何度も・・・。

しかし返信は来ない。


201 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 20:49:43.80 ID:cj6KJBAo
最悪の事態が、脳裏をよぎった。

まさか・・・。それはないよな・・・。

俺はマンションのある駅に降り立った。
そう・・・。
俺とまりあが出会った、あのマンションだ。

まりあが待っているとしたら、もうこの場所しか思いつかなかった。

これでもし、まりあが待っていなかったら
ピエロすぎて、笑い死ぬぜ!

辺りはそろそろ、暗くなり始めていた。
俺はマンションまで、全力で走った。

途中で、まりあがバイトをしていたカレー屋が出てきた。
一応外から確認してみる。

もしここでまりあが
カレーを食べていたら驚きだが、それはなかった。


261 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 20:56:46.54 ID:cj6KJBAo
川が見えた、まりあと最初にデートをした
俺が大好きな川だ。

川辺を見ても、ここからでは暗くてよく確認ができない。

俺は下に降りてみた。

マンション以外だと、次に有力なのがここである。

まりあとおにぎりを、食べた辺りを探してみる。
しかしここにも、まりあの姿は無かった。

もうマンションしかない!!

俺はまた走り出した。

俺はアホだ・・・。

何やってんだ・・・。

まりあがいるわけないじゃん・・・。

ここでまりあがいるのは、ドラマの世界なんだよ・・・。

でもさ・・・。

でもさ・・・・・・。

もう後悔したくないじゃん・・・。

あの時みたいにさ・・・。

だって・・・。

だって・・・・・。

俺やっぱり、まりあが好きだもん!!

もう自分の感情に、嘘がつけなかった。

未練タラタラのみっともない男ですよ!!

俺は・・・・。

それでも、まりあ好きなんだから、仕方ないじゃんよぉぉぉぉーーーー!!!!


351 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 21:05:21.46 ID:cj6KJBAo
俺はマンションに到着した。

この場所に来るのも、約2年ぶりだ。

俺はマンションの前で、まりあの姿を探した。

しかしどこにも、まりあはいなかった。

俺はマンションを見上げた。
妙に懐かしい気分が、込み上げてきた。

目を閉じてみる・・・。

色々な思い出が、次々と蘇ってきた。

まりあと初めて出会った日のこと。

油田と3人で、カレーを食べたこと。

まりあの部屋で
俺のディレクターデビュー作を観たこと。

渡辺が引越してきた日のこと。

終戦まりあ記念日のこと。

まりあへ告白したこと。

まりあと初めてキスしたこと。

悟と3人での夕飯を食べたこと。

まりあと初めて、一線を越えた夜のこと。

そして最後に、303号を出た日のこと。

全部・・・。全部・・・。

ここから始まって、ここで終わったんだ・・・。


482 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 21:19:57.44 ID:cj6KJBAo
俺はエレベーターホールに入った。

エレベーターに乗り込んで、3階のボタンを押した。

なんだか久しぶりだよな。

このエレベーターも・・・。

3階フロアに到着した。

もうここしかないよ。

ここにいなければ諦めるよ・・・。

エレベーターを降りて、部屋がある廊下に出た。

302号室の前・・・。

袴姿の女の子が立っていた。

俺の住んでいた、303号の方を向いている。

後ろ姿だが、間違いない。


まりあだ・・・。


そうか今日は卒業式だったよな・・・。

「まりあ・・・。」

俺はその後姿に、声を掛けた。

まりあがそっとこっちを振り向いた。

「光輝くん・・・。」

「来ちゃった・・・。多分ここしか無いかなって・・・。」

まりあは俺の顔をジッと見つめて

「ありがとう・・・。光輝くん・・・。」と呟いた。

「俺やっぱり無理みたい。まだまりあのこと好きみたい・・・。」

もうバレてるよね。普通にさ・・・。

まりあの目から、涙がこぼれ落ちた。


552 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 21:24:23.81 ID:cj6KJBAo
「ごめんね・・・。光輝くん・・・。」

もう・・・。ね・・・。
ごめん。我慢できなよ。

「やっぱり、まりあが好きなんだよ」
今度はハッキリとそう言った。

いいのか・・・。
抱き寄せていいのか・・・。
いや・・・。抱き寄せるべきなのか・・・?

分からない・・・。

でも体が勝手に、行動を起こしていた。

俺はまりあを、抱き寄せた。

まりあが俺の胸の中で泣いている。

「私もね・・・。光輝くん・・・。」

「うん・・・。」

「やっぱり光輝くんが好き・・・でした・・・。」

なんかちょっとだけ分かっていたかも・・・。
悟の電話で話した時に・・・。

一緒にいようぜ・・・。

これからは・・・。

ずっと・・・。

一緒にいようぜ・・・。

「これからは、何があっても一緒にいようぜ!」

そう言って、もう一度強くまりあを抱きしめた。

まりあは小さな声で
「はい・・・」と呟いた。


674 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 21:32:42.60 ID:cj6KJBAo
エピローグ

6月16日。
俺とまりあは不動産屋にいた。

3年前、俺に303号を紹介してくれた不動産屋だ。

「7月1日に入居できますので」
不動産屋のお姉さんはそう言った。

俺とまりあは不動産から出てはしゃいだ。

「良かったね!光輝くん♪」

「うん。マジで良かったよ!」

「意外と人気物件なんだよ。あのマンション!」

「うん。しかも303号が空いているなんて・・・。めっちゃラッキーだよな!」


807 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 21:43:05.69 ID:cj6KJBAo
俺とまりあは、明日あのマンションに引越しをする。

俺とまりあが、初めて出会ったマンションだ。

もう1度あそこから、油田や渡辺と・・・。

そしてまりあと!

あのマンションの303号で、やり直したかったのだ。

正直お金の問題は痛い。

でもね。世の中お金の問題じゃないことあるよね?

「まりあ・・・。2ちゃんって知ってる?」

「ん?2ちゃんねるのこと?電車男??」

「そうそう。それそれ!!」

俺はずっと考えていたんだ。

あの日からずっとね。

「俺さぁ。まりあにラブレターって書いたことないじゃん?」

まりあはおかしそうに
「あははは」と笑った。

「書いてやんよ!めっちゃ長いラブレター。まりあに書いてやんよ!」

「そりゃ楽しみだ♪」

「今までのまりあとの思い出、全部文章にしてやんよ!」

「それはかなりの長編になりますねぇ。光輝くん♪」


935 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 21:52:38.88 ID:cj6KJBAo
「毎日毎日・・・。書くからさ・・・。まりあも毎日見てくれよな!」

「掲示板を使ったリアルタイムのラブレターだね!」

俺とまりあは一緒にスレタイを考えた。

まりあも必死で考えている。

自分宛のラブレターのタイトルを・・・。

電車の中でこのスレタイは決まった。

「やっぱ1人暮らしってキーワードは必要だな。うん」

「私の意見を入れます。隣人に恋(を)した。はそうでしょうか?」

「それじゃ。2つ合体させて・・・。憧れの1人暮らし隣人に恋(を)した。これでどうよ?」

「いいと思います♪」

「7月1日までの引越しまでに書き終えるぜ!」


43 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/06/30(月) 22:18:45.84 ID:cj6KJBAo
こうして俺は、毎日毎日レスを重ねていった。

当初、考えていたスレタイは

「憧れの1人暮らしで隣人に恋(を)した」であった。

あれだけ、誤字脱字を気にしていた俺が

最初のスレタイから、間違えていたのである。

まぁ・・・。俺らしいかもね。

なんとか明日。
俺とまりあが新しい生活を、始めるまでに間に合いました。

この2週間。書くのがつらくてつらくて仕方のない時もあったけど・・・。

こんなに多くの人を巻き込んでしまった

長い長いラブレターが書き終わりました。

やっぱり最後はこの言葉で、このスレ(ラブレター)を締めたいです。

このスレに関わった全ての人に・・・。

どうもありがとうございました。

油田、渡辺・・・。

また明日からよろしくな!

そしてまりあ・・・。

俺はやっぱり・・・。

まりあが大好きです!

憧れの1人暮らしで隣人に恋(を)した


          完

74 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/30(月) 22:30:13.98 ID:cj6KJBAo
あはは!酉忘れも最後に俺らしいよね!