憧れの1人暮らしで隣人に恋した【その2】 
憧れの1人暮らしで隣人に恋した【その3】 
憧れの1人暮らしで隣人に恋した【その4】 
憧れの1人暮らしで隣人に恋した【その5】 
憧れの1人暮らしで隣人に恋した【その6】 

375 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 13:51:49.43 ID:xDrAwNEo
カレンダーは2月に入っていた。
新年が明けてからの1ヶ月は、凄まじい早さで過ぎ去っていった。

その日も俺は、気だるい気分の中
自分のデスクで仕事をしていた。

そんな俺に、ある人物が声を掛けきた。

「よお!元気か?」
俺は肩を叩かれて、顔を上げる。

「川田さん・・・。」

川田さんはニヤニヤしながら
「全然元気じゃねーな。死人の面だぜ。」と言ってケラケラと笑った。

今の俺の顔は、そんなにヤバいのか・・・?

「まぁいいや!今日、仕事終わったら飲みいくぜ!」

俺に川田さんの誘いを、断る権利は無い。
それに俺も、川田さんと飲みたい。

「了解しました!早く仕事を終わらせますので。」

モーニングステーションの2回目を終えて
仕事量は若干の余裕があった。

俺と川田さんは18時には、居酒屋のテーブルに腰を下ろしていた。



380 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 13:58:07.67 ID:xDrAwNEo
乾杯を済ませた後、川田さんはグイグイとビールを飲み干し言った。
「しかし、なんだな。モーニングステーションか?
あれの2回目のVを、南さんに観せてもらったけど、ありゃクズだな」

川田さんは、極めてご機嫌な様子でそう言った。

ドキッ・・・。

確かにあれは、ただ台本を書いて、ただ撮影をして、だた編集をしただけの
駄作だ。そこには「情熱」が入っていない。

同業者には分かるのだ。
川田さんほどのベテランが、それを見破れないわけがない。

「すみません・・・」
俺は素直に、師匠に謝った。

「別に俺に謝らんでいいけどよぉ」
そう言って追加のビールを注文した。

「ただお前を俺の会社に誘った時・・・。
俺は不器用だけど、一生懸命なお前と、仕事がしたいって思ったんだぜ!」


385 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 14:02:20.53 ID:xDrAwNEo
胸が締め付けられる。
確かに俺は、あの頃と変わってしまったのかもしれない。

仕事に対する情熱が、急激に減退していた。
がむしゃらに頑張る気持ちが、どこかへ行ってしまっていた。
自分を奮い立たせそうとするけれど、その方法が見つからない。

無口になった俺を見て、川田さんが聞いてきた。

「なにがあったんだ?話してみろ」

俺は川田さんに全てを話した。

自分のキャパシティを知らずに、仕事を受けすぎて
白井さんに迷惑を掛けたこと。

まりあと仕事を両立できなかったこと。

そして悟の存在。

最後に、全てに対して無気力になってしまったこと・・・。

たどたどしい口調ではあったが全て話した。
きっと誰かに話を聞いてもらいたかったのだ。


392 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 14:08:25.08 ID:xDrAwNEo
俺の話を聞き終えた川田さんはこう切り出した。
「まぁ。片桐のオッサンはPの資格なんかねぇな。
でも白井のババアの件はお前が悪いな。」

俺は下を向いて、ジッと川田さんの言葉に耳を傾けた。

「でもよ。お前の仕事に対する、行動は間違っていねぇよ。」

俺の・・・。仕事に対する行動・・・?

「俺はよぉ。お前とそのねーちゃんが、結婚しようが別れようが
そのショックで、ねーちゃんが自殺しようが、ハッキリ言って関係ねぇ」

相変わらず言葉がストレートな人だ・・・。

「もし今回の仕事で、俺がお前と組んでいたとして・・・。
テメーら2人のつまんねー色恋沙汰で、俺の仕事おろそかにしてたら・・・。」

してたら・・・。

「ブチ殺してたぜ!」

川田さんの声と手が小刻みに震えている。

頭でそのシチュエーションを想像しただけで
怒りがこみ上げてくるのであろう。

「お前がねーちゃん優先して、俺の命削って書いた台本や、魂かけて望んでる
ロケを適当にしていたら、殺してたわ。」


401 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 14:14:15.79 ID:xDrAwNEo
川田さんはそこまで話すと、店員を呼んで
「あ・・・。おねーちゃん。僕お代わりね♪」と早くも3杯目に入った。

もし俺に後輩が出来て、そいつが俺のA.Dになって・・・。
俺が書いた台本や、ラッシュを適当に扱って、デートに行ったとしたら・・・。

殴らないまでも、相当頭に来るであろう。

川田さんが、真剣な口調を取り戻した。
「仕事っちゅーのは、みんな人生抱えて、家族抱えてやってんだ。
局の人間も、スポンサーも、白井のババアも、カメラマンも、音声マンも、編集マンも。
お前が考えているよりも、お前の仕事は沢山の人の人生抱えてんだ。」

「はい・・・。」
俺は自分の甘さを痛感した。

「それが仕事だ。誰もテメーの恋愛なんか知ったことじゃねー。
ついで言うとテメーの女なんか、死のうが生きろうがこっちには関係ねー。」

さすがに、まりあの顔を思い浮かべて憂鬱になる。


410 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 14:19:25.47 ID:xDrAwNEo
川田さんは、俺をジッと見て
「だからお前は間違っていなかったよ!」と言った。

「はい・・・。ありがとうございます・・・。」
俺は泣き出しそうな声でそう言った。

今回の一件で「お前は間違っていない」と言われたのは初めてであった。
100%俺の間違いだと信じ込んでいた。

それだけに川田さんの言葉は、意外であり胸に染みた。

川田さんの声は明るいものに変わっていた。
「それによ。仕事が原因で男と女が別れるなんてよくある話だ。
今この瞬間に別れてるやつらもいるわ。
じゃなきゃ、付き合った連中はみんな結婚してるぜ。」

あの・・・。川田さん。俺らまだ別れてないんすけど・・・。

最後に川田さんはこう言った。
「でも、その悟ってのは追い出せ。決めるのはテメーだけどよ!」

そう言って川田さんは、なぜか俺の頭をペシリと叩いた。


420 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 14:24:24.99 ID:xDrAwNEo
川田さんと飲んだ帰り道、俺は考えていた。

俺に悟を追い出すことが出来るのか?
俺の親友であり、幼馴染の悟・・・。

俺がグレた時も、唯一それまで通りに接してくれた悟。
俺は悟が大切だ。
かけがえの無い存在だ。

しかし・・・。
まりあも大切だ。まりあも大好きだ。
でも、あの2人が一緒にいるところを見るのは
これ以上耐えられない。

そのためには、親友を追い出すしかないのか?

どうすりゃいんだ・・・?

「くそーっ!!」
俺の口からは、そんな言葉が吐き出されていた。

あの2人は、俺がこんなに悩んでいることを、知っているのか?

そんなことを考えながら歩いていると、携帯のバイブが振動した。
着信である。まりあだ。


427 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 14:28:14.63 ID:xDrAwNEo
「もしもし・・・。」

「あっ!光輝くん?まりあです。」

「うん。」

「いまどこ?今日は早い?」

「もうすぐマンションだよ。」

「そうなんだ!夕飯用意してるから食べにきてよ!」

俺はまりあの顔を見たかった。
とにかく、まりあの顔を見て安心したかったのだ。

口を開いて「行くよ」と言いかけたその瞬間!

「悟くん誘ってさ♪」

一瞬とてつもない絶望感に襲われた。

そして目の前が真っ暗になって、立っているのもつらい・・・。

悟・・・。

ダ・・・ダメだ。

言ってしまう・・・。
破滅の言葉を・・・言ってしまう・・・。


434 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 14:30:39.63 ID:xDrAwNEo
「・・・いらねーよ・・・。」
俺は絞り出すような声でそう言った。

「ん?なに?よく聞こえなかった。」

今度はハッキリとした声で言った。
「いらねーって言ったんだよ!悟と2人で食え!」

そう言って電話を切った。

もうなにもかもに絶望的だ。
まりあとの関係に終わりを感じた。


579 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 16:52:28.26 ID:xDrAwNEo
携帯の電源を切り、俺は川辺に行ってボーッと座っていた。

ここはまりあと、初めてデートをした場所だ。

あの時は、まりあが大きなおにぎり作って・・・。
油田に借りた網で、小魚を追って・・・。
俺が川に落ちて・・・。
2人で笑ったよな・・・。

「楽しかったな・・・。」
俺はポツリとそう呟いた。

なんで、こんな事になってしまったんだろう?

仕方ないよな・・・。

誰も悪くはないよ。
たまたま運命の歯車が、そうやって動いてしまったんだ。

仕方がない・・・。
仕方がない・・・・・・。

俺はそうやって、自分を納得させると腰を上げた。
部屋には帰れない。
いや・・・。帰りたくない。

あんなに楽しかった、あのマンションに
自分の居場所が、無くなったような気がした。

その夜も俺は会社に帰って、1人寂しく眠りについた。


586 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 16:56:43.95 ID:xDrAwNEo
悟が俺のマンションに来て、丁度1ヶ月。
全てが崩壊する日は、あっさりと訪れた。

俺はその日、会社を23時頃に出た。
いくらなんでも、ずっと家に帰らないわけにはいかない。

あそこは俺の部屋である。
逃げ隠れして、気を使う方がおかしい。

会社を出た俺はある決意をしていた。

悟には出て行ってもらおう!

そして元の生活を取り戻そう!

かなりの勇気が必要な決断であった。
電車でも、悟にどうやって伝えるべきか?
そればかり考えていた。

駅に到着してから、マンションまでの道のりも気が重い。

俺は今日、1番大切な親友を失うかもしれない・・・。


599 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 17:04:12.31 ID:xDrAwNEo
とうとうマンションに着いた。
俺はエレベーターで3階に上がり
自分の部屋のドアを開けた。

真っ暗だ・・・。

リビングに上がり、電気を点けようとして手を止める。
悟が寝ていた。

いま起こすのは可哀想だな。
そう思って、俺は暗闇の中でボーッとしていた。

その時、部屋の片隅で何かがピカピカと光った。

悟の携帯・・・?音は出ていなかった。

俺は携帯を手に取って、悟を起こしてあげようとした。

しかしその瞬間、手に持っていた携帯の光がピタリと止まった。

そして着信か、受信を知らせる光に切り替わった。

俺はそのまま、悟の携帯を元の場所に戻した。

その瞬間、俺の頭が別のことを考えた。

携帯・・・。悟の・・・。
俺の中で凄まじい葛藤が起こる。
その葛藤は数分間続いた。

そして・・・。

俺は震える手で、もう一度悟の携帯を手に取った。


609 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 17:08:37.53 ID:xDrAwNEo
やってはいけないという思い。
でも確認したいという思い。
そして安心したいという思い。

俺はそばらくの間、悟の携帯を握りしめたまま
立ち尽くしていた。

「悟・・・。」

俺は眠っている悟に対して、小さく呟くとその携帯を開いた。

1度限りにしよう・・・。
2度とこういうマネはよそう・・・。

それは賭けであった。
もし今の着信が、俺の思うその人物でなければ・・・。

それ以外は何も見ない。
着信履歴もメール受信も見ない。

この着信の主・・・。
その確認は、俺の中で勝手に決めた賭けであった。

ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。・・・・。

心臓がもの凄いスピードで脈打つのが分かる。
携帯の小さなボタンに指を添えた。
その指が震えている。

俺はボタンを押した。

そのディスプレイから、俺の目に飛び込んできた文字は・・・。


633 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 17:15:17.79 ID:xDrAwNEo
まりあちゃん

一瞬視界がブレた。
頭に血液が昇っていくのが分かる。
同時に頭がクラクラとした。

しかし俺は体を、ピクリとも動かすことが出来なかった。

数秒だったのか?
それとも数分だったのか?

俺は我に返った。

賭けは・・・。俺の負けだった。

悟・・・。悪いけど・・・。全部見させてもらう。

最初に感じた、罪悪感は全く無くなっていた。

着信・発信・送信・受信。

最近のものは、全てまりあだった。


650 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 17:19:52.29 ID:xDrAwNEo
受信ボックスから1番古い「まりあちゃん」の文字を見つけた。
それは悟が来てから、まだ日の浅い時のものであった。

こんなに早くの段階で、2人は番号とアドレスを交換していたのだ。
俺の時とは大違いだよな。

俺は1番古い受信メールを開いてみた。
「光輝くんがかぇってこなくて寂しぃぃぃ"(ノ_・、)" グスングスン」

最初の数日は、似たような内容の物ばかりであった。
俺が忙しくて、帰ってこないまりあの寂しさが綴られている。

しかし光輝という文字は、日が新しくなっていくにつれて
その数が序々に減っていった。

「きょぅのごはんゎナニがィィ??(〃∇〃) 」

「ぃまから部屋ぁそびぃってよぃ??(*^o^*) 」

「なんか光輝くんにぉこられたよ。。(。>_<。) えーん」
これは俺が電話で怒鳴った日だな・・・。

それから2~3通あとのメール。
「(。-_-。)ポッ」

なんだこれ??

俺はそのメールの日時に1番近い、悟の送信を探した。
開いてみる。

「俺まりあちゃんのこと好きだぜぃ!」

・・・・・・・・・・。

俺は自分に問いかけた。

もう・・・。切れていいよな?

もう・・・。我慢する必要はねーよな?


691 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 17:25:48.86 ID:xDrAwNEo
俺は横で寝ている親友の、胸倉を掴んで殴ろうとした。

悟・・・!!!
悟・・・・・・!!!
悟・・・・・・・・・・!!!

しかし、出来なかった。

俺は小2から、中3までボクシングをしていた。
7年間ボクシングで鍛えたこの拳・・・。

それを無防備な相手の顔面に、思いっきり打ち込んだら・・・。
鼻が潰れるどころの騒ぎではない・・・。

俺は奥歯をグッと噛み締めた。

悟の携帯をその場に置いて、俺はそっと自分の部屋を出た。

698 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/06/28(土) 17:26:27.02 ID:P8ToNB2o
だいたい好き放題旅して自由人きどってる奴が常識あるわけないから
はっきり言ってただプーだしww
こうなることも普通に予想できたと思うけどな


46 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 21:55:20.68 ID:xDrAwNEo
気がつくと俺は、304号の前に立っていた。
とにかく誰かと、話したかった。

インターホンを押す。
しばらくすると「はい?」という渡辺の声が聞こえた。

「遅くにごめん。二宮です・・・。」

「どうしたの!?」

「ごめん。少し話したくって・・・。」

「ちょっと待ってね。」

すぐにドアが開いた。

トレーナー姿の渡辺が姿を現す。
「どうしたの?二宮くん?」

俺はうつむいて、黙っていた。

俺の深刻な状況が伝わったのか
「とにかく入って。」
そう言うと、渡辺は俺を部屋に招き入れてくれた。


61 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 22:01:29.65 ID:xDrAwNEo
「二宮くん。どうしたの?話してみて?」
渡辺の優しい声が、逆に悲しくなってくる。

自分の頭の中での、整理も兼ねながら
俺はポツリ・・・ポツリと、今までの出来事を話した。

全てを聞き終わった渡辺が一言
「ひどい・・・。」と呟いた。

渡辺は立ち上がると、玄関に向かった。

「おい!渡辺!!」
渡辺が玄関のドアを開けて、飛び出して行った。

俺も慌てて、渡辺を追いかけた。

渡辺は302号のインターホンを押している。
「はい?」まりあが応答した。

「彩です。ちょっと開けて欲しい!」

「渡辺。何をする気だよ?」

渡辺は、俺の言葉を無視している。
俺は渡辺が、こんなに怒っている表情を初めて見た。

ガチャリとドアが開く。
渡辺の表情を見たまりあは
「彩さん・・・。」と言って驚いた表情をした。

まさに一瞬だった。

バチン!!!

乾いた音が廊下に響き渡った。


89 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 22:06:36.89 ID:xDrAwNEo
渡辺が力いっぱいまりあの頬を叩いた。

「あんたなんか!二宮くんがどんな思いで、仕事をしているか知らないくせに!」

まりあは叩かれた方の頬を押さえて、うつむいている。

いま俺の目の前で起こっている事が、現実のこととは思えなかった。

しかし・・・。

でも・・・。

そうだよな。

この辺りでそろそろ決着つけないとな。

俺は黙って部屋に戻った。

そしてリビングの電気を点けると悟を起こした。

「起きろ。悟」

う~ん。と言って伸びをしながら悟は起きた。

「どした光輝?今帰ってきたのか?」
悟は目を擦りながらそう言った。

「悪いけど出て行ってくれ。この部屋から」

悟の動きが急に止まった。
俺の顔を凝視している。

俺はもう1度言った。

「出て行ってくれ。この部屋から」


128 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 22:13:28.76 ID:xDrAwNEo
悟は全てを、悟ったかのように
立ち上がると、自分の荷物を鞄に詰め込み始めた。

俺は悟から目を背け、壁をじっと見つめていた。

悟は鞄に、荷物を全て詰め込むと
「今まで悪かった・・・。」と呟いた。

俺は悟の方を向いて、顔を見て聞いた。
「俺たちは・・・親友だよな・・・?」

数秒間の沈黙の後、悟は俯いたまま
「ああ。そうだ・・・」。と静かな声で言った。

そして鞄を持って、玄関の方へ歩き始めた。

俺は悟の背中に向けて言った。
「お前も・・・。まりあが好きなのか?」

悟が歩くのを止めた。
数秒間の沈黙。

そして玄関の方を向いたまま
「ごめん・・・。光輝」

そう言い残すと悟は、玄関のドアを開けて
俺の部屋から姿を消していった。


173 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 22:21:46.74 ID:xDrAwNEo
悟はがいなくなった部屋・・・。
俺の居場所が返ってきたはずなのに・・・。

あの夜から俺は、部屋に戻っていなかった。
またしても会社へ、泊まり込む日々。
生活は何も、変わらなかった。

ただ以前と違ったのは、泊まり込む理由が
仕事のためでなく
極めてプライベートなものに、変化していたことだろう。

今はまりあと、会いたくなかった。
それは向こうも同じであったであろう。

その証拠に、まりあからの着信もメールも一切なかった。

渡辺とは会社で会った。
彼女は「ごめんなさい」と頭を下げた。

俺は首を横に振って
「俺のために、やってくれたことじゃん。ありがとな」
と言って渡辺に感謝した。

あの日から、3日目の夜。
俺が会社の仮眠室で、眠りにつこうとした時のことだ。

携帯が光った。
メールの受信を知らせる光・・・。

差出人は、まりあであった。

そのメールには、こう書かれてあった。
「しばらく実家に帰ります。明日の夜会えますか?」


189 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 22:25:50.08 ID:xDrAwNEo
そうか実家に帰るのか・・・。
もうあのマンションは、住んでいてもつらいだけかもね。

去年はみんなで集まって、笑いあったあの場所。

みんな(油田以外)の気持ちがバラバラになった
今となっては、つらい場所でしかないよね。

こうやって1人・・・。
また1人って消えてゆくのかな・・・?

「分かりました。明日の夜、7時に俺の部屋へ来て下さい。」

明日で全てが終わるんだ。

これは予感ではない。

確信に近いものであった。


228 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 22:31:51.16 ID:xDrAwNEo
18時30分。
俺はリビングの電気を点けた。

見慣れたリビング。
それがなぜか、少し懐かしい感じに思えた。

「そうか・・・」俺は呟いた。

それは悟がいなくなったからか・・・。

仕事しか見えていなかった生活。
気持ちは常に、ピリピリと張り詰めてていた。

そしてたまに帰れば、そこに悟がいた・・・。

本当に安らいだ気持ちで
この部屋に1人でいるのは、久しぶりであった。

引越して来た日。

高ぶる気持ちと、不安の中で食べたカレー。
水っぽくて全然、美味しくなかったっけ・・・。

その時インターホンが鳴ったんだよね。
そこにプラスチックの容器を持ってる、まりあが立っていたんだ。

カレーのお裾分けだった。
そのカレーはすごく旨かったよ。
俺のカレーとは、比べ物にならないくらいにね。

もしかしたら
俺はその時から、まりあに恋してたのかもしれないね・・・。

その終焉の場所も・・・。ここか・・・。


249 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 22:36:38.01 ID:xDrAwNEo
そんなことを、しみじみと思っていると

ピンポーン。

インターホンの音がした。

相変わらず音がでかい。
俺は少し笑ってしまった。

ドアホンで応答する。

「はい・・・。」

「・・・・まりあです。」

「うん。開いているよ。入ってきて・・・」

まりあがリビングに入ってきた。

こんなに悲しそうなまりあの顔を
俺は今までに、見たことがなかった。

俺はまりあの笑顔が大好きだったのに・・・。

なんでこんな事になっちゃたんだろうね・・・?

まりあと向かい合わせに座った。

お互い何も話さない。

長い沈黙・・・。

最後は俺から、キチンと切り出そう。


268 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 22:39:59.54 ID:xDrAwNEo
「実家に帰るん・・・だ・・・?」
声が暗い。自分でもハッキリと分かる。

まりあはすぐには、返事をしなかった。

30秒ほど経ってからやっと
「うん・・・。」
その一言を吐き出した。

「大学・・・。通える?実家から・・・。」

「うん・・・。少し遠いけど・・・なんとか・・・。」

それからまた沈黙が流れる。
重苦しい空気が、部屋全体を包み込む。

確信に・・・。
入らなきゃな・・・。

「まりあが・・・。今日会いたいってメールくれたのは・・・。
実家に帰る・・・報告?」

「・・・・・・・・・・。」

「まりあ・・・。」

聞かなければいけないよな。

俺とまりあが、次のステップに踏み出すためには
どうしても避けては、通れないんだ。

「俺・・・と・・・悟・・・。どっちが好きなの・・・?」


312 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 22:46:47.28 ID:xDrAwNEo
こんなに重い言葉を言った経験は
それまでの人生で1度も無かった。

今後の人生でも出来れば言いたくない。
そんな重い言葉だ。

まりあ・・・。
はっきりとした返事をしてくれ・・・。

これが俺にできる、まりあへの最後のアプローチなんだ・・・!

沈黙の中、時間だけが過ぎていった。
もう後戻りはできない。

いくらでも待つから・・・。まりあ・・・。

俺か・・・。悟か・・・。

ハッキリとした返事が必要なんだよ・・・。

次の瞬間、まりあの目から一筋の涙が流れた。

そして一言
「なんで・・・。」

しかしその言葉の、続きは無かった・・・。


384 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/28(土) 22:56:31.00 ID:xDrAwNEo
「なんでそんなこと聞くの?」

「なんでもっと私を、かまってくれなかったの?」

「なんでこんな事になっちゃったの?」

まりあが
「なんで・・・。」の後に言いたかった言葉は、今でも分からない。

でもこの時の、まりあの苦しさは
目の前にいる俺に、ヒシヒシと伝わってきた。

もう楽になっていいよ・・・。

もう苦しめたりしないからさ・・・。

まりあ・・・。

「悟が好きなら・・・。無理しなくていいよ。まりあ・・・。」

たった半年だったけど
俺がまりあの彼氏として、最後に言った言葉がこれであった。

まりあは俺の言葉を聞くと
しばらくして静かに立ち上がった。

そして最後にペコリと頭を下げて、リビングを後にした・・・。

まりあがいなくなった部屋で
俺は一晩中眠れずに、ただ壁を見つめていた。

もうまりあが戻ってくることは無かった・・・。

俺とまりあの全ては、こうして終わりを告げた。


901 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 09:51:43.92 ID:2mU030Io
もう俺に残っているのは、仕事だけだった。
モーニングステーション、3本目の制作期間に突入していた。

また激務が待っている。
しかし俺に、創作意欲が戻ってくることは無かった。

燃え尽き症候群なのか・・・?
鬱病なのか・・・?

この時には、体の異変に気づいていた。
まず食事の回数が減った。
いくら食べなくても、平気なのである。

お腹が減らないのである。
体を壊さないために、無理して食べているといった感じであった。
そして量を食べようとすると嘔吐した。

あとは起きるのが、極端につらくなってきた。
前までは仕事があれば、僅かな睡眠時間でも
パッと飛び起きることが出来た。

しかしこの時は、いくら寝ても起きるのがつらい。
起きるのがつらいというより、起きたくなくない。

起きれば、日常生活が嫌でも始まる。
それを体が拒否しているような感覚である。


905 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 09:55:54.28 ID:2mU030Io
そして心がおかしい。

まりあのことを思うと勿論
「悲しい」「つらい」「みじめ」「切ない」などの感情が頭をよぎる。

でもその感情すら鈍ってしまって、どこか他人事にようにすら思える。

1日中頭が冴えない、ボーッとした日々が続いた。

でも仕事はしなければならない。
そこで立ち止まっていると、O.Aの日はあっという間に近づいてくる。

もうこの時は手を動かすことすらも、つらい状態で仕事に挑んでいた。

そんな毎日が続く、2月下旬のある日。
俺がマンションに帰ると、301号から出てきた油田と会った。

油田は俺を見つけると「二宮さん!」と言って近づいてきた。

「おう・・・。あぶちゃん。久しぶり。」

「お久しぶりです・・・。ところで、なんでまりあちゃん部屋を解約したんですか?」

部屋を解約・・・!!

俺はまりあが部屋を解約したことを、この時初めて知った。


913 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 10:01:30.56 ID:2mU030Io
「学校で教えてくれたんですが・・・。理由までは教えてくれなかったんです。」
そういうと油田は寂しそうに俯いた。

そうか・・・。油田。
お前知らなかったんだよな。

「油田・・・。俺、彼女とは別れたんだ。」

その言葉を聞いた油田は、驚きの表情を見せた。
「どうしてなんですか・・・?」

俺はそんな油田の言葉を聞いて、少し微笑んだ。。
「まぁ。色々と・・・ね。」そういって
油田から離れ自室へ向かった。

俺の背中に向けて、油田が言った。
「二宮さんは・・・。出て行きませんよね?」

そこ言葉には回答せず、俺は部屋に入った。

僅かな時間だけど、4人で楽しく過ごした3階フロア。

そこから1人の人間がいなくなる。
それがまりあだなんて・・・。

半年前の俺は、想像もしていなかったな。

もうこれ以上の不幸は起こらないだろう。
これ以上は、俺にもちょっと想像がつかない。

しかし神様ってすごい。

こんな俺に最後の総仕上げを仕掛けてきた。


925 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 10:07:05.66 ID:2mU030Io
この時、社内での俺のポジションは
同期の中でのエース格になっていた。

偶然とはいえ入社1年未満の人間が、長尺物の番組を1本任されているのだ。

他の同期は長尺物どころか
短尺物すらディレクターの経験はない。

望んでそうなったワケではないが
社内での期待は日増しに大きくなっていた。

それと逆行するように、俺の仕事に対する熱意は薄れていった。

しかし俺の存在価値は、会社にしかなかった。

もう無理をしてでも、仕事をして
一人前のディレクターになることだけが、生き甲斐となっていた。

そんな3月の半ばのある日。

俺は制作デスクの松井さんから
重要な話があると、会議室に呼び出された。

なんだろう・・・?


931 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 10:13:04.27 ID:2mU030Io
「実は・・・。二宮くん」
松井さんは、言いにくそうにしている。

「はぁ・・・。」

「来週から支社に行ってくれ・・・」

「・・・・・・・。」


俺はこの時のショックを、今でも忘れない。
本当に目の前が、真っ暗になった。

時間の流れが一瞬止まった・・・。

この時ばかりは
失っていたはずの感情が、沸々と湧き上がってきた。

「あっちで頑張ってもらいたい・・・。」
その松井さんの言葉は、
これは社の命令であるというニュアンスが、ありありと出ていた。

サラリーマンである俺は、それに従うしかない。
拒否をする権利など、勿論無いのである。

支社・・・。
それはただの営業所に過ぎない。

人数は4~5人しかいないと聞いた。
本社で定年前の役立たずが飛ばされる、姥捨て山のような場所らしい。

業務は簡単な営業と、資料整理くらいだという。

そこに行くことは即ち・・・。

映像制作の道が絶たれる!

そのことを意味していた。


941 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 10:15:24.45 ID:2mU030Io
精神の崩壊はこの時、完全に成立した。
唯一の生き甲斐であり、心の拠り所であった

「一人前のディレクターになりたい」という夢すら奪われた・・・。

俺は「失礼します。」と言って会議室を後にした。

歩いている床が
まるでトランポリンのようにフワフワとしていた。

後になって聞いた話だが
最初の段階では、支社に送る人物のリストに
俺は入っていなかった。

俺を強く推薦(嫌がらせ)してくれたのは他でもない、赤松と白井さんの
紅白コンビであったという。

それでも他のプロデューサーは、必死で抵抗してくれた。
だが紅白コンビが、最後まで譲らずに寄り切った形であったという。

942 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/06/29(日) 10:16:38.01 ID:0LFtUQAo
これはウザイ

しかしこれが会社か・・・


946 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 10:18:15.68 ID:2mU030Io
俺は別にそれを恨んでない。

会社とは社会とは、そういう場所である。
理解も納得も出来る。

その命令が嫌であれば、それは会社を辞めるしかないのだ。

それがサラリーマンだ。

でも俺には心の支えが完全に無くなった。

なにを目標に生きていけばいいのだろう・・・。

支社に通うようになって、僅か2日目で俺は駅で倒れた。

心も体もとっくの昔に、悲鳴を上げていたのだろう。
それが限界に達して、崩壊したのだ。

気がつくと俺は、救急車の中にいた。


958 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 10:34:35.94 ID:2mU030Io
救急車の中では
救急隊員が会社へ電話を入れ、事情を説明してくれた。

救急車の中は思っていたよりも、雑然をした雰囲気であった。
救急隊員が俺に何度も、不調の具合を訊ねてきた。

そこに寝ている自分が、まるで非現実の世界にいるような感じだった。

病院に到着した俺は、血圧などを測られた記憶がある。

そしてそのままベットに寝かされた。

看護師が「ゆっくり眠っていいですよ」と優しい声を掛けてくれた。

俺はその言葉を聞いて、涙が出そうになった。

もう頑張らなくてもいいんですよ・・・。

そう言われているような気がした。

俺は目を閉じた。

院内は騒がしかったが
なぜか凄く安心した・・・。

これでやっと開放されたのかな?

もうずっと眠っていたいんだ・・・。


34 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 11:36:25.52 ID:2mU030Io
1時間ほどベットで寝させてもらった後、俺は立ち上がった。
近くにいた看護師に「もう大丈夫です。」と伝えた。

「それじゃ少し先生とお話をしましょう!」と促され
医師の前に座らされた。

医師は優しい声で
「疲れだと思いますが、心当りはありますか?」と聞いてきた。

俺は会社であったことを、適当に掻い摘んで医師に伝えた。

医師はジッと俺の顔を見つめて
「恐らく自律神経かと思いますね。」

自立神経・・・?
鬱病とはなにが違うのだろう・・・?

俺は「はぁ・・・。」と曖昧な返事をした。

医師は最後に
「診断書を書きますので、会社を2週間程度休んで
ゆっくりして下さい。」と言った。

自律神経・・・。
なんだかよく分からないが
俺の精神は、医学的に見ても病気らしい・・・。

それはやはりショックであった。

俺は診断書の入った、病院の封筒を持って
フラフラと駅へ歩いていった。

目は虚ろであったと思う。

電車に乗って向かったのは自宅ではない。
本社であった。

40 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 11:41:11.19 ID:2mU030Io
俺は会社に入ると、制作デスクの松井さんに近づいていった。

俺に気づいた松井さんは、驚いた表情をした。
「二宮くん。連絡は受けている。大丈夫なのか?」

「はぁ・・・。これ病院の診断書です。2週間程度休めとのことです」

「そうか。ゆっくり休みたまえ。」

俺はボーッとした表情でこう言った。
「いや・・・。僕・・・。会社を辞めさせて頂きます。辞表は後日郵送しますので・・・」

俺の言葉を聞いた松井さんが、ポカーンとしている。

そして辺りの人間が、ザワザワと騒ぎ始めた。

その時、会社の電話が鳴った。
そのコール音を聞いて、俺は吐き気を覚えた。

松井さんにペコリと頭を下げ会社を出た。

誰も追っては来なかった。

みんな呆気にとられている様子であった。


52 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 11:45:31.68 ID:2mU030Io
俺は部屋に戻ると、全てのカーテンを閉じた。
遮光カーテンなので、部屋は一瞬で真っ暗になった。

暗闇が妙に落ち着いた。

携帯の電源を切って、俺は眠り続けた。
今はおふくろの声ですらも、聞きたくなかった。

どうしても目が覚めてしまった時は
風呂に入って、またベットに潜り込んだ。

そして眠くなるのを、ただひたすらに待った。

食事もろくに摂らずに
何日も何日もただ眠っていた。

もう何日眠り続けたのか?それも分からない状態であった。

3日?5日?もしかして10日?
カーテンを一切開けないので、昼か夜かもハッキリと分からない。

その間2度ほど、渡辺が俺を心配をして訪ねて来てくれた。
俺がまりあと別れたことは、渡辺に報告していた。

渡辺は何度も「私のせいだ・・・」と言った。

「それは違うよ・・・。渡辺・・・。」
渡辺が胸を痛めていることがつらかった。

全ては俺の責任なのに・・・。

そんな渡辺に対しても
俺は玄関のドアを開けて、顔を見せることはしなかった。


59 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 11:49:01.35 ID:2mU030Io
今の自分の姿がどんなものなのか?

それは俺自身にも分からなかった。
きっと全身は痩せこけ、顔も真っ白であったに違いない。

その姿を渡辺に見せたくなかった。
ドアホン越しで会話した程度である。

「二宮くん・・・。本当に大丈夫?」
渡辺は心配そうな声でそう訪ねてくる。

「うん・・・。元気になったら報告するから・・・。」
俺はそれしか言えない状態であった。

ごめんな・・・。渡辺・・・。


61 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 11:51:49.55 ID:2mU030Io
その日も俺は暗闇の中で、ただ息をしていた。
眠りたいのに眠れない。

ジッと次の睡魔が来るのを待って、闇を見ていた。

その闇を切り裂いたのが

ピンポーン

というインターホンのバカでかい音であった。

俺は驚いて体をビクッと震わせた。

渡辺か・・・?油田か・・・?

俺は恐る恐るドアホンに出た。

「はい・・・?」

ドアホンの受話器から聞こえたその声・・・。

「・・・新田です。」

それはまりあの声だった!


231 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 13:19:48.18 ID:2mU030Io

「まり・・・あ・・・?」

俺は声が擦れた。

一体どうしたんだ?

なんの用なんだ?

今更・・・。この俺に・・・。

「引越しのご挨拶に・・・。来ました・・・。」

そうか。
このマンションは退去予定の、1ヶ月前に知らせなければいけない。

油田からまりあの退去を聞いたのが
ちょうど1ヶ月前・・・。

今日でまりあは302号の契約が切れるのか・・・。


239 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 13:23:55.73 ID:2mU030Io
俺は迷った。
ドアを開くべきか・・・。
開かないべきか・・・。

今のこの姿を見せたくない。

いかにも「あなたに振られて廃人になりました」
というようなものではないか・・・。

でも・・・。

でも・・・・・。

でも・・・・・・・・・。

あんなに大好きだったまりあ・・・。

自分の人生で、1番好きになった女性。

まりあ・・・。

これがまりあの顔を見る、最後になるかもしれない。

いや。間違いない!

これが最後だ!


247 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 13:28:25.88 ID:2mU030Io
「ちょっと・・・。待って・・・。ドア開けるから」
俺はまりあにそう言った。

ギリギリ髭は剃っている状態である。
でも髪はボサボサだ。
仕方がない・・・。

俺は玄関のドアを開く。

凄いスピードで脈打つのが分かる。

ドキン。ドキン。ドキン。

ドアを開けて、やっと今が夜だという事に気がついた。

薄暗い廊下の明かりのに照らされて

まりあが立っていた。

いま俺の目の前にいるまりあ・・・。

本当に本当に・・・。大好きだったんだ。

いや・・・。違う。

きっと今でも・・・。俺はまりあが好きなんだ・・・。


256 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 13:31:57.04 ID:2mU030Io
「まりあ・・・。」

俺の口から、思わずその言葉が漏れた。

「お久しぶりです。光輝くん・・・。」

まりあがそう言った。

そして俺の顔を見て、少し驚いた表情を見せた。
「光輝・・・くん。」

もう言い逃れはできないよな。
こんな姿を見られたら・・・。

「なにかあったの?光輝くん・・・?」

「ちょっとね。仕事で・・・。」

隠していても仕方がない。

まりあが黙り込んだ。
自分の責任を感じているか?

まりあのせいじゃないんだ。
こうなったのは・・・。

俺は心の中でそう呟いた。

「時間あるの・・・?もし良かったら・・・。中で話す?」

まりあは少しためらった様子のあと
コクンと頷いた。


269 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 13:35:32.49 ID:2mU030Io
俺はリビングにまりあを通した。
電気のスイッチを入れる。

数日間、ずっと暗闇にいたせいか目が痛い。
そしてなにより、精神的に落ち着かない。

「ごめん・・・。まりあ。豆球でいい?」

「うん・・・。」

この時の言動で
まりあは既に、俺がまともな状態ではないと悟ったのであろう。

俺とまりあは向かい合って座った。
流れる沈黙・・・。

俺はまりあに、話掛ける言葉を捜したが
それは見つからなかった。

「お仕事・・・。」
まりあがポツリとそう呟いた。

「お仕事・・・大変なの?」
まりあが俺の目を見てそう言った。

「うん・・・。大変というか・・・。会社辞めちゃった・・・。」
もう隠しても意味がないだろう。

まりあだって薄々感ずいているかもしれない。

「・・・そっか。」

またしても沈黙が流れる。


282 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 13:39:53.15 ID:2mU030Io
俺は少しだけ明るい声を出した。
「なんかね。仕事・・・。頑張りすぎたみたい。少し休めってさ。医者が」

まりあは黙って、ジッと俺の顔を見つめている。

何か・・・。何か話さなきゃ・・・。

「もうね・・・。ディレクターになれないみたい。なんだかね。もうダメみたい」

何で俺はこんな話してんだよ!でも言葉が止まらなかった。

まりあはそれでも、黙って俺の言葉に耳を傾けた。

「なんかね・・・。夢が無くなっちゃった・・・。みたい・・・。あはは・・・。」

あれ・・・?俺泣いている・・・?

自分では冷静なつもりなのに・・・。

気がつくと、俺の目から涙がポロポロと流れ落ちていた。


299 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 13:45:00.02 ID:2mU030Io
そしてそれは、全く止まる気配が無かった。

まりあはそんな俺を見て、静かに立ち上がった。

そして俺の横にひざまずいた。

まりあは俺の頭を抱えこみ、優しくその胸に抱き寄せた。

「疲れちゃったんだね・・・。光輝くん・・・。ごめん・・・ね。」

俺はまりあのそこ言葉を聞いて、更に激しく泣き出してしまった。

まりあはそんな俺の顔を、そっと両手をで包み込んだ。
そして優しくキスをしてくれた。


334 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 13:51:16.51 ID:2mU030Io
まりあのキスは長く続いた。

そしてそれは

少しずつ・・・。

少しずつ・・・。

激しさを増していった。

その流れは、ごく自然に来た。

まりあは最初、すごく痛がった。

しかし・・・。

「いいよ。光輝くん。大丈夫だから・・・」

俺とまりあは、初めてその一線を越えた。

終わった後も、しばらく抱き合っていた。

「電気点けていいかな・・・?」

まりあが俺に聞いてきた。

俺は「うん」と頷いて電気を点ける。

眩しい・・・。

俺はまりあがいるベットに戻った。

シーツを見ると、そこにはまりあの鮮血の痕があった。


384 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 13:54:40.67 ID:2mU030Io
俺は驚いた。

実は俺はまりあが、2番目の人である。

最初の人は、俺の人生を大きく変えた事件に起因している。

「まりあ・・・。」

俺はそう言って、まりあの顔を覗きこんだ。

まりあが言った「初めてだよ・・・。光輝くんが・・・。」

「悟とは・・・。」

そう言い掛けて俺は言葉を飲み込んだ。

今ここで、悟という名前は口に出したく無かった。

その夜は2人で抱き合って眠った・・・。

しかし次の日の朝

目を覚ました俺の横に、まりあはいなかった。

テーブルを見た。そこには1枚の紙切れがあった。

まりあからの置手紙である。

そこにはまりあの文字で
「いつかの答え・・・。もう少し待ってください。まりあ」とだけ書かれていた。


568 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 15:53:01.62 ID:2mU030Io
俺の辞表が、正式に受理された。

最後は総務部からの電話だった
「二宮さんの辞表が受理されました。
年金手帳と、雇用保険被保険証は郵送させて頂きます。

「分かりました。短い間でしたが、お世話になりました。」

あっけない幕切れであった。
俺は丁度、入社1年で会社を退職した。

もし戻って来いって言われても
もう体が働くことを、拒否してる状態だったんだけどね。

川田さんには退社の報告をしなきゃ・・・。
渡辺は・・・。もう会社で聞いているかな?

しかしどうしても、川田さんに電話が出来ない。
川田さんと、仕事をしていた現場が脳裏をよぎる。

仕事の現場を思い出すと震え出した。
これが・・・。鬱の症状なのか・・・?

俺は心の中で、川田さんに謝罪した。
「すみません・・・。川田さん・・・。」


588 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 16:00:23.76 ID:2mU030Io
あの夜以降、まりからからの連絡は全く無かった。
俺も連絡はしなかった。

ただまりあの答えを待った。
それしか、俺の出来ることは無かった。

退社が決まった日の夜、俺はコンビニに出かけた。
そこでタバコを買った。

17歳の時にやめたタバコ・・・。
なんでこんなものを、買ってしまったんだろう?

マンションに到着して、3階フロアに到着した。
まりあの住んでいた、302号の前を通り過ぎる。

俺は足を止めた。

そして302号の
302号の前に立つと、インターホンを押してみた。

ピンポーン。

室内で鳴り響く音が、外にいる俺の耳にも微かに聞こえた。

フッ・・・。と笑い出してしまった。

なにバカなことやってんだよ・・・。俺は・・・。

もうまりあはいるはずないのに・・・。

ズボンから、自分の部屋のカギを取り出して
カギ穴に差し込もうとした瞬間!

ガチャリ・・・。

俺の後方で、ドアが開く音がした。

まさか・・・。まさか・・・。

まりあ・・・?

俺は後ろを、振り向いた。


608 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 16:05:43.09 ID:2mU030Io
しかしそこには立っていたのは油田だった。

なんだオメーか・・・。

ドアの開く音は、301号だったのか。

「コンビニ行くの?」
俺は油田に話しかけた。

「ええ・・・。ところで二宮さん・・・。」

「ん?」

「まりあちゃん。カレー屋のバイト辞めたの・・・知ってますか?」

そうなんだ・・・。

そうだよな。
実家からあのカレー屋に通ってまで、バイトする意味ねーよな。

「ううん。知らなかったよ。」

「そうですか・・・。」

油田は急に、しおらしい声を出した。
「なんか・・・。寂しくなっちゃいましたね・・・。」

そうだな・・・。少し前までは・・・。
すっげー楽しかったのにな・・・。

「そうだね・・・。」
俺はそう言うと、自分の部屋へ入っていった。


629 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 16:11:45.65 ID:2mU030Io
第19章 光

俺は部屋の引き出しを、ゴソゴソと探っていた。

あった。あった。

この部屋の契約書だ。

そこに明記されている、大家の番号に電話を掛ける。

「ありがとうございます。○○住建です。」

「○○の303号に住んでいる二宮です。」

「お世話になります。」

「5月一杯で、退去の手続きをお願いします。」

「かしこまりました。差し支えなければ退去の理由を・・・」

そんなやり取りを経て
俺は303号の契約を解除した。

俺が初めて、憧れの1人暮らしを始めた303号とも
あと1ヶ月で、お別れである。

そう思うとなんだか、寂しさが込み上げてきた。

部屋の壁にそっと手をあてた。

「たった1年と1ヶ月だったけど、今までありがとうな!
次は、いい人に住んでもらえよ・・・」
そういって俺は、303号にお礼を言った。


647 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 16:14:25.55 ID:2mU030Io
その日の夜、油田と渡辺にメールを送った。
「5月一杯で303号を出ます。」

油田の返信は「嫌ですよ!!ずっといて下さいよ!!」
渡辺の返信は「寂しくなるね・・・」
であった。

2人の気持ちは、痛いほど嬉しかった。

それから退去日までの生活は、特に書くべきことが無い。

寝て、起きて、ボーッとして、ご飯を食べて、風呂に入るだけだ。
完全なニート状態である。

退去日の前日に、俺は油田と渡辺に挨拶をしに行った。

渡辺は留守であった。
もしかして、泊まりロケかもしれない。

俺は部屋に戻って
「今までありがとう。二宮」
そう書いたメモ書きを、304号の郵便受けに入れておいた。

俺はその後、301号のインターホンを押した。


924 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 18:48:53.41 ID:2mU030Io
「はい・・・?」
油田が応答した。

「俺だよ。二宮。ちょっと開けてよ。」

油田が出てきた。

退去お知らせメールの後も
ちょくちょく顔は会わせていたが、正式な挨拶はこれが初めてだった。

「俺、明日出て行くからね。今までありがとな!」

引越して来た日の夜。
お前とコンビニで会って、そこから毎日が楽しくなったんだ。

そんな毎日が送れたのは、マジでお前のお陰だよ。
ありがとうな。油田・・・。

「僕・・・。寂しいですよ・・・。やっぱり。」
急に油田が、メガネを外して泣き始めた。

お前ってば本当にいいヤツね・・・。

「なに泣いてんだよ!バカじゃねーの・・・。」

ヤバイ・・・。
俺も泣きそうになってしまう・・・。

油田に泣かされてしまう・・・。


933 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 18:53:00.65 ID:2mU030Io
「だって・・・。だって・・・。」

全く・・・。弟みたいなヤツだな。

俺一人っ子だけどさ・・・。

「また遊びに来るよ!そん時までに、ゲームとマンガ増やしててな!」
そういって俺は、油田と最後の別れを終えた。

退去日の当日は、大家の社員が部屋の点検に来た。

「綺麗に使用して下さって、ありがとうございます。
この状態ですと、敷引きは満額返ってきますよ!」

「そうですか!」
それは有り難い。
俺は今や無職なのである。

ここで敷引きを、多く取られでもしたら・・・。
唯一の心配事がそれであった。


948 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 18:57:47.64 ID:2mU030Io
社員が「部屋のカギを貰いますね。」と言った。

303号の部屋のカギ・・・。

最初の頃はこれをドアのカギ穴に差し込むのが
嬉しかったよな・・・。
やっと大人になれた気分だったよ。

俺は303号のカギを渡した。

「なんか少し寂しい感じがするでしょ?」

その社員が訊ねてきた。

「そうですね・・・。」

社員が玄関のドアを開けてくれた。

俺はもう1度だけ振り返って、部屋中を見渡した。

まりあとこの部屋で、最後に会った時の事を思い出した。

目を閉じて心の中で呟いた。

ありがとう・・・。303号・・・。

俺は玄関を出た。


964 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 19:01:33.52 ID:2mU030Io
実家に帰った俺を、おふくろは温かく迎え入れてくれた。

「ただいま」
そう言って俺は、玄関の敷居を跨いだ。

正月にこの玄関を出た時は
まさかこんなに早く戻って来るなんて、思ってもみなかった。

会社を辞めるなんて・・・。
そして・・・まりあと別れるだなんて・・・。

おふくろが俺の顔を見て、最初に掛けてくれた言葉が
「おかえり光輝。今までお疲れ様でした。」
であった。

俺は仕事が忙しい時には、おふくろにも連絡を入れていなかった。

でもおふくろは、理解していたのかも知れないな。
俺がどんな状況だったのかを・・・。

すごいよな。母親ってさ。


980 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 19:06:10.97 ID:2mU030Io
おふくろは、俺が会社を辞めた理由を一切聞いてこなかった。

今は聞くべき時ではない。
いつか話してくるだろう・・・息子から。

それがおふくろなりの、気遣いだったに違いない。
俺はそんなおふくろの、気遣いに感謝した。

居間でおふくろが俺にお茶を入れながら言った。
「そうそう。悟くんは・・・。」

ドキッ!悟・・・。

「1人で上手くやっているのかい?」

???

なんのことだ?

俺が不思議な顔をしていると

「あら。知らないのかい?悟君が1人暮らし始めたのを・・・」

全く知らなかった・・・。

悟が俺の部屋を出てからの状況は、全く分からない。

俺と悟は、連絡を一切とっていないのだ。

おふくろは恐らく、悟の母親に聞いたのであろう。

でも俺と悟が、こんな関係になってしまったことを
わざわざおふくろに知らせる必要もない。

言っても悲しむだけである。


35 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/06/29(日) 19:12:28.79 ID:2mU030Io
「いや。知ってるよ。まぁ器用なヤツだし・・・。大丈夫だよ!」
適当に言葉を濁しておいた。

しかし・・・。意外な情報であった。
悟だって現在は、金に余裕があるわけではないだろう。

それでも出て行く理由・・・。

もしかして・・・。

まりあと暮らしているのか・・・?

ドクン・・・。ドクン・・・。

急に胸が締め付けられるような感覚に襲われた。
すっかり忘れてた嫉妬心が、再び沸き起こる。

やめろ・・・。嫉妬なんかすんじゃねーよ!
もう元カノじゃねーか!
みっともない感情を出してんじゃねーよ!

しかし理性で感情を押さえ込むのは、非常に困難な作業であった。

まだ・・・。

まだ・・・・・。

一緒に暮らしていると、決まったわけじゃねー!

唯一その方向に、精神安定の活路を見出していた。

あの日から約2ヶ月・・・。

「いつかの答え・・・。もう少し待ってください。」

しかしいくら待っていても
答えを知らす連絡は、未だに来なかった。

もしかして、答えはもう出ているんじゃないのか?

まりあ・・・。


49 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/29(日) 19:14:52.27 ID:2mU030Io
おっと失礼しました。
酉忘れですwwww

あと乙一と言わなきゃならんなww
 
憧れの1人暮らしで隣人に恋した【ファイナル】 




恋 (新潮文庫)
小池 真理子
新潮社
2002-12-25