憧れの1人暮らしで隣人に恋した【その2】 
憧れの1人暮らしで隣人に恋した【その3】 

612 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/19(木) 20:42:43.61 ID:QXNks9Mo
「その日だとバイトないから、私の部屋で一緒に放送観ようよ!」

マ・・・マジっすか!?

もう怒ってないのですか?

何があっても行きますよ!

「いいの?お邪魔しちゃって」
顔がニヤけてくるのが自分でも分かる。
頑張れ俺の顔面。

「うんうん。もちろんだよ。みんなで観ようよ!」

うん。うん。観よう!観よう!みんなで。

へ・・・?みんな??

「油田くんも誘っておくからさ♪」

油田・・・ですか。その子いらない子・・・。

「60秒だとすぐ終わるから録画して何度も見ようね!」
「う・・・うん。そうだね」

なんにしても仲直りのキッカケにはなりそうだ。
公私ともにいいことづくめで怖い。

別れ際に言ってみた。
「おやすみ。まりあ」

「おやすみなさい。光輝くん」

あの笑顔が帰ってきた!
最高に可愛いあの笑顔が。



616 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/19(木) 20:45:25.57 ID:QXNks9Mo
俺は自分の部屋に入ると
「よっしゃーー!!」とガッツポーズをした。

次の日から俺は編集作業に入った。

いくら撮影が無事済んでもここで気を抜けば元も子もない。

まずはオフライン編集。
簡単にいうと撮影した映像を大体の順番に並べて
簡易編集機でザックリと60秒前後にまとめる。

またの名を仮編集という。

今なら2時間もあれば余裕で終わるこの作業を
俺は丸2日を掛けてこなした。

自分が納得いくまで何度も何度もやり直した。

これが俺のデビュー作になるのだ。
いい加減な出来では
今度いつディレクションをさせてもらえるか分からない。

そしてこれはお茶の間に流れるのだ。
不特定多数の人間が目にする
誰も注目なんかしないかもしれない。
でもその時間そのチャンネルをつけている人間は数万人いる。
(視聴率は1%で数万単位になる。地方により違うが)
誰かは真剣に観てくれるかもしれない。

そしてなによりまりあが観てくれる。
まりあには俺が全力で作ったものを観て欲しい。

俺はオフライン編集に没頭した。

そして次の日オンライン編集(本編集)に臨んだ。
これは自社では出来ない。
ポストプロダクション(編集屋)で行う。


618 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/19(木) 20:45:37.55 ID:QXNks9Mo
撮影が成功してもオンラインでダメになることもある。
逆もまたしかり。

つまりこの作業で作品の良し悪しは決まるのだ。

ポスプロにはプロの編集マンがいる。
自分のしたい演出を必死で言葉にして伝える。

たかが60秒のパブでなにを必死に・・・。
編集マンはそう思ったかもしれない。

しかし関係ない。最後の最後で後悔してたまるか!


621 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/19(木) 20:47:37.31 ID:QXNks9Mo
無事に画が繋がった。
ここに別撮りしていたナレーションを被せる。

これで全体像は完成だ。

最後の最後。MA作業で作品は完成する。
MAとはBGMやSE(効果音)そしてナレーションを入れる作業である。

今回ナレーションは編集で入れたのでOK
SEはプロに任せた。

そして選曲マンが今回の作品に合いそうなBGMを5~6曲
用意してくれた。

その中から俺が1曲を選ぶ。

ディレクターの醍醐味ともいえる瞬間だ。

BGMは作品全体の雰囲気を作る大切なものだ。

慎重に選になる。

俺の選んだ曲を映像とMIXする。

これでとうとう俺のデビュー作が完成したのだ。

「プレビューしますね」MAマンが言う。

緊張の一瞬だ。

完成作品が目の前の画面に映し出された。
60秒の時間があっという間に過ぎていく。

MAマンが訊ねてくる「どうでしょうか?」

俺は万感の思いを込めてこう言った。

「OKです」


638 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/19(木) 21:37:22.64 ID:QXNks9Mo
編集からMAまで付き添ってくれた
南さんが拍手をしてくれた。

「初ディレクターお疲れ!いい作品になったな」

俺は南さんにペコリを頭を下げ
「トイレ行ってきます」と言って部屋をでた。

俺はトイレで1人泣いた・・・。

仕事というのは本当に辛い。逃げ出したい時もある。

しかし・・・

ほんの一瞬
ほんの一瞬だけ
仕事をやっていて良かったと思う瞬間が訪れる。

だから社会人は頑張れるのかもしれない。

おふくろ・・・。
俺ちゃんと自分で一つの仕事完成させたよ!

南さん・・・。
俺にチャンスをくれて(人がいなかっただけだが)ありがとうございます。

川田さん・・・。
あなたに出会えたことに感謝します。


641 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/19(木) 21:44:50.05 ID:QXNks9Mo
余談だが俺はマスゴミと言って
TVマンが叩かれる度に悲しくなる。

特に報道が多いと思うが
東京(なんだかんだ言っても業界の頂点はここ)で
ゴールデンの報道番組をやっている人間は一握りだ。

俺から言わせれば天才だ。精神もタフだ。

その人たちもこの日の俺のような
経験を何百回としてあの場にいる。

しかし過剰演出も悪いが「マスゴミ」の一言で片付けられると
少し切なくなってくる。

給料の高い安いはあっても
TVマンの最後行き着くところは
みんな「視聴者を楽しませたい!」なのだ。

これ以上この話をするとスレも荒れそうなので
余談を終了します。

ごめんね


644 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/19(木) 21:50:11.50 ID:QXNks9Mo
ポスプロの帰り
TV局にテープを納品して
本当の意味でこの仕事が完了した。

あとはしっかり流して下さいよ!

変なことまで祈ってしまう。

ご機嫌で会社に戻ると
志村の姿を見つけた。

あの事件以来、社内で何度も志村に会ったが
俺が挨拶をしても目も合わせてもらえなかった。

俺は志村に近づいた。

やっぱり怖い。
でも俺はどうしても志村に言いたいことがあった。


652 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/19(木) 21:57:31.54 ID:QXNks9Mo
「志村さん。少しお時間ありませんか?」

志村はびっくりした表情を浮かべている。

まさか俺から挨拶以外の言葉を聞くとは
思ってもいなかったのだろう。

「なによ?」
表情は一瞬で冷めたものに変わった。

「今日僕が作ったパブが完成しました。
たった60秒のものですが、もしよろしければ
1度プレビュー(試写)して貰えませんか?」

俺はポスプロから貰った社内試写用の
VHSを差し出した。

「パブ?君が作ったの?」

「はい」

志村が失笑した。

「なんで俺がそんなつまらないもの観るの?
60秒のパブなんて演出した内に入らないからさ」

「・・・・・・」

「んじゃ俺忙しいから」
そう言い残し志村は俺の前から消えて行った。


661 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/19(木) 22:04:27.48 ID:QXNks9Mo
俺は自分の席に座った。

いいのだ。これで。

俺が志村にプレビューをお願いしたのは
自分の中でのけじめに過ぎない。

「俺は潰れなかったですよ!」
それを分かって欲しかっただけだ。

あの事件以降、志村を恨んだことは1度もない。

志村だって必死なのだ。
なにより俺のミスで迷惑を掛けた事実は変わらない。

いいのだ。これで。

俺はその後テープが擦り切れそうになるまで
自分の作品を観た。
何度も巻き戻して観た。

そしてその夜は自宅に戻ってからおふくろに電話をした。


664 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/19(木) 22:13:09.51 ID:QXNks9Mo
「はい。二宮です」
おふくろの声だ。
なぜかやっぱり安心する。

「俺だよ。おふくろ」

「どうしたんだい?仕事でなにかあったかい?」

例の事件以降、俺が連絡をすると
心配そうな声になるおふくろ。ごめんね。

「ううん。今日俺ね。ディレクターの仕事をしたよ」

「でれくたーかい?」

「うんうん。60秒のね。簡単なCMみたいなものだけどさ」

「そうかいそうかい。光輝はずっとでれくたーになりたかったんだろ?」

「うん。まだなってはいないけどね。とりあえず1本だけだよ」

おふくろが涙声になった。
「良かったね。天国のお父さんにも報告しなきゃね。
光輝が立派なでれくたーになったってさぁ」

「あはは。全然立派じゃないけどね」

俺は放送日時を伝えて電話を切った。
おふくろはビデオ録画すると言ってはりきっていた。

ビデオなんて操作できないだろ?おふくろ・・・。


689 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/19(木) 22:32:03.31 ID:QXNks9Mo
第11章 渡辺のお引越し

今日はまりあの部屋で放送を観る日だ。

この日ばかりは南さんも
「早く帰って自宅のTVで観ろ。全然印象が違うぞ。
それも勉強だ!」と言って定時退社を認めてくれた。

俺は駅に着くとコンビニに入った。

ジュースや適当なお菓子を買い込んだ。

まりあにばかり負担を掛けちゃいけないね。

俺は一旦自室に入り着替えて302号に行った。

インターホンを鳴らす。
この瞬間はいつもドキドキした。

今日はどんな可愛いまりあが出てくるのだろうか?

俺と確認するとドアはすぐに開いた。

「いらっしゃーい」そう言って出てきた
まりあはワンピース姿だった。

その可愛いさ・・・いい加減にしろよ!


699 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/19(木) 22:39:44.51 ID:QXNks9Mo
「お酒買ってあるよ。放送のあと乾杯だね」
そう言いながら俺を招き入れるまりあ。

おいおい。こりゃ新婚カップルじゃねーかよ!

リビングに入ると

「いやぁ。どうもどうも」

手を上げている油田がいた。
貴様はいつも俺より先にいるんだな?おい!!

「まぁまぁ座って下さいな」
テメーの部屋じゃねーだろが!!

時間は19時30分。放送まで30分弱だ。
3人でしばしの雑談。

実は俺はこの時かなり緊張していた。
本当に放送されるのか?
俺なんかが作った作品が・・・?

19時50分。放送まで4分。
ここでまりあがビデオをセットした。
口数が減ってくる一同。


708 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/19(木) 22:45:46.14 ID:QXNks9Mo
放送まで

3分・・・・。

2分・・・・。

1分・・・・。

俺「・・・・・・・・・(ドキドキ)」

ま「なんか緊張するね♪」

油「待ち遠しいですなぁ」

そういって油田がテーブルに肘を付いた瞬間。

ザーーーーーー。

TV画面が砂嵐になった。

へ・・・?何これ放送事故??

「えっ!!」俺とまりあは同時に声を上げた。
「あっ!!」と1人別の声を上げる油田。

画面の右上は21CHを表示している。
そんな局あるの?


728 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/19(木) 22:53:15.43 ID:QXNks9Mo
「すすす・・・すみません。肘が・・・リモコンに当たったみたいで・・・」

油田ぁぁぁーーー。貴様という男は!!!

相当テンパッっているのか
リモコンを適当に押しまくる油田。

「ちょ・・・。油田。頼む!!頼むから早く戻してくれ!!」

「えっーと。何チャンネルでしたっけ?えっーと・・・」

「60秒しかないんだ。油田。急いでくれ!頼むから!」

TV画面が見覚えのある映像を捉えた。

「そこ!油田!!そこで止めて!」

俺の体感では冒頭20秒以上は進んでいた。
テープが擦り切れる程みた映像だ。

すぐに分かる。


754 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/19(木) 23:23:17.70 ID:QXNks9Mo
あっという間に俺の処女作はTV画面から消え去った・・・。
そこは既にカレーのCMに支配されていた。

シーーーーーーン。

室内が静まりかえる。

「そ・・・そうだ。ビデオ!ビデオ撮ってたんだ。やっぱ便利だよね。ビデオ」
まりあが慌てて停止から巻き戻しのスイッチを押す。

まりあの気遣いが痛々しかった。

そこに映し出された映像は
俺が100回くらい観た映像だった。

そこにLiveの興奮は無かった。

またカレーのCMが流れる。

シーーーーーーーーーーーーン。

またしても室内は静まりかえった。


763 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/19(木) 23:34:25.33 ID:QXNks9Mo
しかし俺が一生懸命に作ったデビュー作は
無事お茶の間に放送さたようだ。

心の奥底から込み上げる感動を
全身で受け止めていた。

右の拳は握りしめていたに違いない。

「すごいね・・・。ほんと」
まりあがポツリとそう言った。

「私の目の前にいる光輝くんの頭の中で考えたことが
映像という形になって、こうしてTVに映し出されているんだ・・・」

聖母マリア様降臨!
君はなんという才女なんだ。

そしてなんて可愛いことを言うのだ。

若い人は感受性が豊かだね。やっぱり。うんうん

俺はチラリともう1人の若者を見た・・・。

「短すぎて何がなんだかよく分かりませんでしたなぁ」

そう言いながら俺のグラスにコポコポと
ビールを注いでいる。

貴様は・・・・。

なにはともあれ俺たちは乾杯をした。


783 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/19(木) 23:45:22.85 ID:QXNks9Mo
ビールが進む。

まりあは何度も何度も巻き戻して
俺のデビュー作を観てくれた。

その度に「すごいねー」と言ってくれた。
仲直りは完璧に成功したみたいだ。

この2人といるとやっぱり楽しい。

年齢も大差無く、俺も浪人や留年があれば
2人と同じまだ大学生だった。

会話をしていても同じ感覚で笑える。

こんなに楽しい時間を
マンションの住人と共有できる奇跡に感謝していた。

飲み始めて1時間程度。
場はすっかり盛り上がった。

今なら言える!このタイミングしかない!

「あのさぁ。ちょっと2人に報告があるんだけどさぁ」

「なになに?」
まりあも酒が入ってテンションが高い。

「2人もこの前ここで会った女の子。
あれ会社の同期の渡辺っていうんだけどさ・・・」

まりあと油田が動きを止めて俺を見つめる。

「なんかアイツ304号に引っ越してくるみたい。あはは」

シーーーーーーーーーン。

再び室内に沈黙が訪れた。


808 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/19(木) 23:56:01.41 ID:QXNks9Mo
「ななな・・・なんですと!」
最初に反応したのはデブだった。

「渡辺さんというと、あの綺麗な顔立ちで
少しすました感じの美人ですね?」

「そ・・・そうだね。それが渡辺だね」

「いつ引越してくるのですか?」

「うーん。近々。おそらく数週間以内には」

「やりますなぁ。二宮さんも。いやー。実に羨ましいですなぁ。二宮さんも」

ちょっと・・・。黙っててくんない?デブ。

俺はまりあの顔の顔を見た。
ビールの入ったグラスを握り締めて
フリーズしている。

下を向いていて表情が分からない。

怖い・・・・。

ひとりではしゃぐオタクの声を遮ったのはまりあだった。

「さぁ。そろそろお風呂入ろーっと。明日学校早いしね。
男子の皆さんは出て行ってくださーい!」

え・・・まだ21時だけど・・・。

「はいこれビデオ。あげる。家で見て下さいね」
俺はまりあにデビュー作のVHSを渡された。

「二宮さん家で飲み直ししましょうか?フヒヒ」
俺は気づくと楽園からオタク部屋へと移動していた。


860 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 01:05:38.56 ID:01qqQeAo
「オーライ!オーライです!!」
次の日曜日。
マンションの駐車場で大声を張り上げている俺がいた。

TシャツにGパン。
頭にはタオルをガテン巻きしている。

「ストーーーーップ!!」
赤帽の車に指示を出す。

なぜ俺は引越し等の行事になったら張り切ってしまうのだろう・・・。

この日は渡辺が304号に入居する日であった。

渡辺はわざわざ俺の休みを狙って引越してきた。
人手を確保するためだ。

通常の引越し業者ではなく赤帽を頼むあたりは
いかに引越し費用を安く抑えるかという
渡辺の魂胆が見え隠れする。


862 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 01:06:46.68 ID:01qqQeAo
「ごめんね。二宮くん。せっかくの休みに」
いやいや。それを狙っていたんでしょ?あなた。

「別にいいよ。暇だし」
今日の渡辺はいつもの渡辺だった。

ノーメイクにTシャツGパン。
引越しだから当たり前なのだが
お陰でドキドキすることは無さそうだ。

なんといってもここは
まりあのテリトリーである。
迂闊な行動はとれない。

俺は赤帽のオッサンと洋服ダンスやTV等の大物を運ぶ。
渡辺は鞄に詰め込んだ衣類などを細々と運んでいた。

30分程度引越しが進行したところで
302号からまりあ出てきた。

俺は焦らない。
今日は同じフロアでの引越しだ。
この後どうせ油にも会うであろう。

「こんにちわ。これからヨロシクお願いします」
渡辺がまりあに挨拶をする。

さて・・・どんな反応を返すのか?


864 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 01:07:30.40 ID:01qqQeAo
「こちらこそヨロシクお願いします。
分からないことがあったら
何でも聞いて下さいね♪」

まりあもニコニコと挨拶を返した。

いける!今日はご機嫌な様子だ。
便乗して俺も話掛ける

「まり・・・。新・・・。新田ちゃんは今からバイト??」
一瞬ためらってしまった。

「まりあ」と呼ぼうとして渡辺の存在が
「新田さん」と呼ぼうとしてまりあの存在が頭の中で交錯した。

脳内で一瞬にして出した折衷案が「新田ちゃん」だったのだ。

それにしても新田ちゃんってなんなんだよっ!!

新田ちゃんは俺をキッと睨むと無言で
エレベータの中へと姿を消した。

このままでは本当にマズいな。
渡辺には話しておくべきだ。


869 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 01:08:59.74 ID:01qqQeAo
駐車場で次の荷物を運ぶ準備をしていると後方から
「やぁやぁ。ご精がでますなぁ」
という声が聞こえてきた。

目の前には俺と全く同じ格好をした
デブが立っていた。油田だ。

「僕も微力ながらお手伝いしましょう」
本当に微力そうだな。

渡辺が挨拶をする
「これからヨロシクお願いします。・・・えっと」
「301号の油田」俺が紹介する。

「すみません引越しのお手伝いまで・・・油田さん」
渡辺が恐縮する。

デブはいや~っと頭を掻いて
「靖男って呼んで下さい。年も近いことですし」

テメーーー!!気持ちワリーんだよっ!!!


903 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 01:58:26.31 ID:01qqQeAo
仕事で行き詰ってこんなの作ってしまった・・・。

マンションフロアの見取り図
うまくできねーーー!!!


        301号   302号
ーーーーーーーーーーーーー
                    303号
          廊下         

                    304号
ーーーーーーーーーーーーー
「EV      「空中」
ホール」


908 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 02:02:53.42 ID:01qqQeAo
まりあ部屋は正確に言うと隣ではなく
向かい隣?と言うのかなか?

マンドクセーから隣で統一した。
今後も隣でいきます


939 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 05:35:32.27 ID:01qqQeAo
部屋に荷物を入れる作業は意外と早く終わった。
1人暮らしの引越しだけに大した量の荷物では無い。

赤帽が帰った後、俺と油田は304号の整理を手伝った。

15時頃片付けのメドがたったところで
「後は1人で出来るから平気だよ」
渡辺のその言葉で一旦解散となった。

「今日はお寿司を出前するから、二宮くんと油田さんも来てね」
手伝いのお礼というわけだ。

ちなみに渡辺が「靖男」ではなく
「油田さん」と呼んだところに注目したい。

「そうそう。302号の・・・。新田さん?彼女も呼びたいんだけど」
渡辺としては同じフロアで同年代のまりあと
仲良くなっておきたいのであろう。

「いいですねぇ。それはグッドアイディアです」

油田は女2人に囲まれて寿司など食った経験はないのであろう。
そのシチュエーションを想像して興奮している様子だ。

ちなみに俺もそんな経験は無い(寿司以外ならギリギリある)


941 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 05:36:32.75 ID:01qqQeAo
19時に304号に集合するという事で一旦解散した。

果たしてまりあはいつ帰ってくるのだろう?
カレー屋のバイトは割と早い時間に終わるはずだ。
19時までには戻ると思う。

部屋でゴロゴロと時間を潰す。

やっぱり言っておくべきだな。

俺は決心して304号に行った。
そしてインターホンを押す。

「はい?」
当たり前だが渡辺の声だ。
なぜか新鮮な気がした。

「二宮だけど。ちょっといいかな?」
ドアがガチャっと開いて渡辺が顔を出した。

「どうしたの?」
不思議そうな顔をする渡辺。

「廊下でいいや。話があるんだ」
俺は部屋を整理中の渡辺を気遣った。

「あのさ。302号の新田さん。新田まりあさんなんだけど」
「うんうん。」

「俺さぁ。彼女のこと・・・好きなんだよね」
渡辺は驚いた顔で俺を見つめた。


942 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 05:38:08.67 ID:01qqQeAo
「そうなんだぁ。でもどうして突然私に??」
そう聞かれると上手く答えられない。

「いや。後々になってどうせバレるじゃん。だから今言ってみた」

この話は俺と渡辺が同期の枠を超えてしまう話だった。
完全にプライベートの領域だ。

俺はなんとなく嫌だったのだ。
会社とプライベートは分けたいタイプだったのだ。

「いいじゃんいいじゃん。彼女可愛いし」
渡辺は笑いながらそう言った。

「応援してあげるよ。今日お寿司に来てくれるといいね」

「うん・・・」

「それじゃ19時だよ!」そう言って渡辺が部屋に戻りかける。

「ちょっと待って渡辺!」

「ん?」

「俺・・・。新田さんのこと・・・まりあって呼んでる」

「うん。それが?」
それ以上は特に無いです。
渡辺の前でまりあと呼ぶために、一応言っておいただけだ。

「なんにもない。それだけ」

渡辺は笑顔を見せて304号へ戻った。


944 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 05:38:43.90 ID:01qqQeAo
よし!これでまりあの誤解を解けばOKだ。

ボーッと空を見ながら
俺はマンションの廊下でまりあの帰りを待った。

30分ほどしてマンションの下にまりあの姿を見つけた。
もうすぐエレベータで上がってくるな。

しばらくするとチーンというエレベーターの到着音がした。

まりあが廊下にいる俺に気づく。
少し驚いた様子だ。
「お疲れ。まりあ」

まりあは「どうも」とだけ言って部屋のキーを取り出そうとした。

「ちょっと待って!」
俺はまりあを呼び止めた。


946 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 05:40:02.93 ID:01qqQeAo
「今夜7時からなんだけど、304号でお寿司を食べるんだ。
渡辺がまりあもどうぞ!って言ってるから一緒に行こうよ」

まりあは少し考える素振りを見せたが

「私はいい・・・」と言った。

「なんで?お寿司だよ?お寿司」

その瞬間まりあが右手に持っていた
某カレーチェーンのビニール袋を
俺の目の前に差し出した。

「私はバイト先で貰ったカレーを食べるのでいいですっ!!」

なんだそりゃ?

「お寿司なんか食べたくありませんっ!!」

この言葉にはさすがにカチンときた。
まりあは好きな女だけど、渡辺だって大事な同期だ。

渡辺の好意に対して、今のまりあの態度はあまりにも失礼だ。

「んじゃカレーばっかり食ってたらいいじゃん!」
とうとう言ってしまった。

「言われなくてもカレーばっかり食べますっ!!私はカレーが大好物なんですっ!!」
そう言って俺を一睨みすると、まりあは302号へ入って行った。

渡辺より気が強い!俺もムカついて自室に帰った。


986 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 11:40:20.90 ID:01qqQeAo
とはいうものの・・・。
俺は後悔し始めていた。

やっぱりアレはちょっと言い過ぎた気が
しないでもない。

それに、もしあれがヤキモチだとしたら・・・。
その分、まりあは俺を好いてくれているという事になる。

みんなが304号で楽しくお寿司を食べている時に
1人でカレーを食べるまりあを想像した。

・・・切ない。

俺は時計を見た。18時45分。まだ間に合う。
謝りに行こう。

その時ピンポーンとドアホンが鳴った。
誰だ?
どうせ油田か渡辺であろう。

俺はドアホンに出ずそのまま玄関を開けた。

そこにはまりあが立っていた。
シュンとして下を向いている。

「どうしたの?まりあ」

まりあは
「ごめんなさい・・・」と呟いた。

俺は意外な言葉を聞いて少しオロオロとした。
「いや。俺もごめん。なんか・・・。ごめんね」


988 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 11:43:30.62 ID:01qqQeAo
するとまりあが恥ずかしそうに言った。

「まだ間に合うかな?・・・お寿司」

まりあは渡辺の部屋へ行くと言っているのだ。

「大丈夫!大丈夫!用意してあるよ」

渡辺のことだ。
お寿司は4人前用意しているに決まっている。

あいつは女だが男前なヤツなのだ。
(引越し費用はケチッたが)

俺とまりあはそのまま部屋を出た。
少し早いが304号に行こう。

「渡辺彩」しっかりとネームプレートをはめていた。
こういうのは性格なんだろうな。

まりあは用心のためかネームプレートを付けていない。
油田は苗字だけ。

俺は渡辺と同じでフルネームだ。
こういうことは、しっかりしないと
なんだか落ち着かないタチである。

インターホンを押す。
「はーい」
「俺。二宮です」

すぐにドアが開いた。
まりあに気づく渡辺。
「新田さんも来てくれたんだ。良かったー。お寿司8人前も買っちゃったから」

8人前ですか!!??

「どうぞ。上がって」
渡辺に促されてリビングへと入る。

・・・・・・・・・・・。

「やぁやぁ。どうもどうも」
聞きなれたデブの声。

貴様いい加減にしろよっ!!
まりあの部屋ならまだしも、渡辺の部屋くらい時間通りに来い!!

78 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 17:02:08.31 ID:01qqQeAo
しかもビール飲んでねーか??テメー!!

「さぁ。新田さんはここに座って!二宮くんはこっちね!」
そう言いながら渡辺はさり気なく席を指定した。

まりあと油田を近づけず、なおかつ俺とまりあが隣になる席だ。
なるほど渡辺が言った「応援するね」はこういう意味なのか。

渡辺は近所の回転寿司屋で購入したであろう、8人前の寿司を広げた。

そして(なぜか)油田が乾杯のとって宴が始まった。

寿司・カレー・すき焼き・・・。ここに越してきてから
みんなで食べたものだ。うん。悪くない。

油田・まりあ・渡辺。
3階フロアも気が付けば全員同世代で
くつろげるメンバーが集まっていた。

引越して来た日は
まさかこんな生活になるなんて、想像もしていなかった。

このままみんなで
ずっと楽しく暮らせればいいな・・・。
俺はそんなことを願っていた。

しかしそんな俺の願いはアッサリと崩れさる。

親友の手によって・・・。

しかしそれはまだ後のお話。


84 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 17:11:03.63 ID:01qqQeAo
場が盛り上がってくる。

酒がまわってきた油田は饒舌になってきた。
「ところで彩さんは・・・」

あ・・・彩さんだぁ!!??

「おっとこりゃ失礼!」
と言って自分の後頭部をピシャリッと叩くデブ。

「いいですよ!彩で」
渡辺がすかさずそう言った。

「そうですかぁ。それでは今後は彩さんで」
不気味にニヤリと笑うオタク。

計算だ・・・。
計算に違いない・・・。

この流れは渡辺の返答まで予測した
油田の緻密な計算による流れなのだ。

きっとまりあの時もそうだったに違いない!

コイツは侮れない・・・。
この分野では完全に俺の敗北だ。

「彩さんはなぜカメラマンを目指したのですか?」

コイツ・・・。俺にはそんなこと、聞いたことも無いくせに!!

渡辺は律儀に答える

「子供の時にね。風の谷のナウシカを観て感動したの。
それから映画に興味を持って・・・。
それでいつの間にかカメラマン志望」

そう言って照れくさそうに笑った。

へぇー。渡辺はアニメがきっかけなのか。
人それぞれなんだな。


95 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 17:22:03.57 ID:01qqQeAo
「ナウシカですかぁ」
油田が語り出した。

「あれは実に名作ですなぁ。冒頭のシーンでですなぁ。
実はちびまる子ちゃんのTARAKOが声優出演しているのです」

更に講釈は続く。

「実は秘話がありましてね。巨神兵のシーンです。
あれはエヴァンゲリオンの庵野秀明が原画を描いたのですよ」
と自慢気に語ったあと

コップに残ったビールをグイッと飲み干し一言。

「どうです?」

一同。シーーーーーーーーン。


渡辺は油田のグラスにビールを注ぎながら
「へ・・へぇー。そうなんだ。勉強になるねぇ・・・。二宮くん」

別に。

油田はヤレヤレというゼスチャーを見せ
「困ったものですなぁ。映像業界の人がこんな事も知らないなんて」

ほっとけっ!!


121 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 17:52:38.97 ID:01qqQeAo
その時、携帯の着信音がした。
渡辺の携帯だった。

「あ・・・私だ!会社からだ!」
そう言って急いでキッチンに消える渡辺。

いま逃げたよね?君。

それにしても携帯か・・・。
俺はこの時まりあの番号はおろか
メールアドレスも知らない。

これは由々しき事態といえよう。

しかし今はチャンスだ!

「そうだ。携帯といえば俺まりあの携帯番号知らないや」

軽くジャブを入れてみる。
油田戦法の変形といえよう。

「そうだね。私も光輝くんの番号知らないや。赤外線送るね!」

あっさりOK!!
油田戦法使えるっ!!

まりあがピンクの携帯を差し出してきた。

チクショーー!!携帯まで可愛いなぁ!!チクショーー!!

俺もグリーンの携帯を差し出す。

もうすぐ君の携帯のデータが、僕の携帯に侵入してくるんだね・・・。

その瞬間、俺の左側からグレーの不気味な携帯が飛び出してきた。

ん???

何ちゃっかりまりあのデータ傍受しようとしてんだっ!!デブッ!!!

「次は光輝くんが送ってきてね♪」

か・・・川田さん。俺とうとうここまで来ましたよっ!!
とりあえず心の中で川田さんに報告をしておいた。


134 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 18:10:45.18 ID:01qqQeAo
第12章 終戦まりあ記念日

季節は真夏に突入していた。とにかく暑い。
しかしこの頃の俺は仕事も熱かった!

初ディレクションを無事に成功させた俺は
その後も1本、2本と南さんから仕事を貰えた。
例のパブであるが全て全力で取り組んだ。

自分のディレクター業務に加え
川田さんAD業務ももちろん俺の仕事だ。

ディレクター業務にかまけてAD業務を疎かにしては
本末転倒だ。これも全力で取り組む。

更に俺にはもう一つ仕事が増えた。
野球中継のFD(フロアディレクター)である。

中継部門が弱点である、我が社の制作部が
本格的に中継業務へ幅を広げていこうという時期だった。

その急先鋒として俺が指名された。
ディレクターは自社でもフリーでもない
V局のディレクターだ。

局D(TV局のディレクターをこう呼ぶ)は
今までのディレクターとはワケが違う。
いわば放送業界の頂点。親玉だ。

局Dが俺に失格の烙印を押せば、それはすなわち
我が社の制作部は中継業務が出来ないことを意味する。


141 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 18:16:49.28 ID:01qqQeAo
俺のプレッシャーは頂点にまで達していた。

野球中継のFDは
弁当の手配にはじまり。
チーム広報への挨拶。
スタッフIDの配布。
スタメンの入手。
実況・解説の出迎え。
試合中はスコアの記入(予算のある仕事ではスコアラーが付く)
CMの入りや明け時間のカンペ出し。

などなど多岐に渡る。

今までは台本に沿って撮影していたが
中継は当然のごとし
その場その瞬間に作品が出来上がっていく。

生中継ならばその瞬間にTV電波に乗っている。

台本も進行台本とその名を変えるのだ。

一瞬のミスも許されない。それが中継業務なのだ。


142 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 18:18:23.19 ID:01qqQeAo
中継の仕事ではよく渡辺と一緒になった。
彼女はまだCA(カメラアシスタント)である。

セッティングでは重い機材を運んで走りまわり。

本番中はカメラのコードをさばく。

そして撤収の時は、再び重い機材を担ぎ
汗まみれになって動きまわった。

地味だが体力的にはかなりハードな仕事だ。
よく怒鳴られていた。

しかし渡辺の目はいつも先を見据えていた。

カメラマンになりたい!

その思いは俺にまでヒシヒシと伝わってきた。

俺も負けてはいられなかった。
渡辺は同期であり、隣人であり、そしてライバルであった。

俺は死に物狂いで中継の仕事を覚え
ある程度局Dの信頼を得ることができた。

仕事が充実していた。
しかしその代償として休みは無かった。

15連勤なんてザラだった。

家に帰るのが週に1日という時もあった。
しかしそれは渡辺だって同じことだ。

この時の俺たちはとにかく仕事に全力だった。


146 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 18:23:19.69 ID:01qqQeAo
そんなある日。
俺は平日に代休をとることができた。

何もしたくない。
とにかくクーラーの効いた部屋でゴロゴロとしていたい。

というわけで俺はその日
油田と2人、部屋でマンガを読んでいた。

しかしコイツもヒマな奴だぜ。
少しはまりあを見習ってバイトでもしろよっ!

プピィィ~~。

コイツ!!人の部屋で屁までこきやがった!!
どんだけくつろいでいるんだよ。

「そうそう。ところで二宮さん」
油田がケツを掻きながら話しかけてきた。

「もうすぐまりあちゃんの誕生日では?」

俺はガバッと飛び起きた。

そうだ・・・。8月15日。
その日は終戦まりあ記念日だった!

「お祝いでもしますかぁ。みんなで集まって」
油田が面倒くさそうにそう言った。


158 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 18:34:48.98 ID:01qqQeAo
やるっ!やるに決まってんだろがっ!!

俺はカレンダーを見た。8月10日。
時間はたっぷりある。

「でもさ。まりあも友達とお祝いするかもよ?」
それは十分に考えられられる。
仮に友達と会わなくても帰省する可能性がある。

「ああ。それは大丈夫ですよ。」

なに?

「昨日彼女と会った時、お盆もバイトが入っているって嘆いていたので」

俺は早速、油田と誕生日パーティーの計画を立てた。


167 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 18:39:22.18 ID:01qqQeAo
会場は俺の部屋。

飲み物の購入も俺。

ケーキの購入は油田。

チキンの購入は渡辺(仕事のメドが立てば)

そして当日の予定は・・・。

まりあのバイトは早くて16時、遅くても19時には終わる。

15時頃に俺からまりあへメール。
内容「今日バイトは何時までですか?
   至急メール下さい。」

   ↓

バイト終わりのまりあがメールを返信。
「○時に終わります」

   ↓

俺返信「至急の用事があります。帰り家に来て下さい」

   ↓

まりあ来る。

   ↓

クラッカー。
 
   ↓

おめでとう!!

   ↓

まりあ感激!!

ざっとこんな感じであった。


173 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 18:50:22.26 ID:01qqQeAo
次の日の朝、俺が部屋を出ると
前方に渡辺の姿が見えた。

「おーい。ナベ。ちょっと待ってくれー」
「あっ!おはよう二宮くん」

俺と渡辺は一緒にエレベーターへ乗り込んだ。

「渡辺は15日ロケ?」
「うん。でも上がり早いよ」
よしよし。

「その日まりあの誕生日なんだ。俺の部屋でパーティーしようよ」
「へぇー。まりあちゃん終戦記念日が誕生日なんだ」

そうなのだ。
実はこの頃まりあと渡辺は
「まりあちゃん」「彩さん」と呼び合う仲になっていた。

お互いの部屋を行き来し
休みが合えば買い物も一緒に行っているらしい。

俺は渡辺に分担を伝えた。

君はチキンを頼んだよ。

「ところでさぁ。チャンスじゃん」
渡辺がニコニコと俺の顔を覗き込む。

「な・・・。なにがよ??」
言いたいことは大体想像がつく。

「プレゼント買っちゃいなよ。まりあちゃんに」

き・・・君は何を言っとるんだね。
俺だけがそんなマネしたら明らかにおかしいじゃん。


182 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 19:01:08.42 ID:01qqQeAo
「いいこと教えてあげようか?」
更にニコニコする渡辺。

い・・・いいこと??

「まりあちゃんね。aquagirl好きだよ」

「な・・・何?アクアガールって」

「女の子のセレクトショップだよ。
この前、買い物した時aquagirl行ったもん。一緒に」

さすがにこの手の情報は女の方が目ざとい。

「そこでまりあちゃん。ブルーのワンピース欲しそうに見ていたよ」

ゴクリ・・・。確かにチャンス。

「それで?それ買わなかったんだよね?」

「うん。結局ね。だからチャンスでしょ?」
「それは・・・確かにチャンスだ」

結局その日の会社終わり、俺と渡辺はaquagirlに行く約束をした。

男1人では入り辛い店らしく
渡辺も付き添ってくれるそうだ。

というか渡辺がいないと
お目当てのワンピースが分からない。


192 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 19:13:56.03 ID:01qqQeAo
昼休みに金を下ろした。
資金は潤沢に越したことは無い。

初ボーナスは有り難かった。

俺は仕事を定時に終えると
1階の技術部に行った。

そこで渡辺はカメラの練習をしていた。

「渡辺ー。帰るべさ」

「はーい。カメラ片付けるからちょっと待っててね」

俺と渡辺は技術部の先輩に「お疲れ様でしたー」と挨拶をし会社を出た。

後で知ったことだが
当時、社内では俺と渡辺が付き合っているという
噂が流れていたそうだ。

付き合ってはいない。
ただ隣には住んでいる。

それがバレるほうが怖かった。


202 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 19:28:02.79 ID:01qqQeAo
俺と渡辺は繁華街に出てaquagirlに行った。
なるほど。これは確かに男1人では入りにくい。

「残ってるといいねー。ワンピース」
そう言いながら渡辺はズンズン店内に入って行く。

ちょ・・・。待ってよ。1人にしないで!

店員の綺麗なお姉さんが
「いらっしゃいませ」と声を掛けてくる。

なんか落ち着かないよ。ここ。

「あー!あったあった!二宮くん。このワンピースだよ」

渡辺が手に取った淡いブルーのワンピースは
清楚で上品な感じがして
まりあに実に良く似合いそうであった。

「へー。いいじゃん。」
と言って手に取る俺。

何気なく値札を見てみると・・・。

\43,000と書かれてあった。

女の子の服は高い!

あらかじめ予想はしていたが、こんなに高いとは。
男ものに比べて生地も薄くて少ないのに・・・。


210 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 19:33:54.47 ID:01qqQeAo
しかし俺は腹をくくった!

まりあがこのワンピースを欲しいのなら
俺はこのワンピースを買いたいのだ!

それが男の甲斐性(多分)である。

ふと店内を見渡すと渡辺がブラウスを見ていた。

近づいて行く。

「ねぇ。二宮くん。これ可愛いね」
うん。確かに可愛いと思う。
渡辺にもよく似合いそうだ。

中継現場で見る渡辺とは別人だな。
いつもは鬼気迫る勢いで、汗まみれに仕事をしてるくせに・・・。

ブラウスを見てはしゃぐ渡辺は少し可愛く見えた。
やっぱ20歳(21歳かも)の女の子じゃん。


218 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/20(金) 19:40:24.88 ID:01qqQeAo
「買ったろうか?それ」
なぜだか分からないが、自然とそんな言葉が出た。

驚いた表情で俺を見る渡辺
「いいよ。彼氏でもないんだし・・・」

「でも欲しそうじゃん。それ」

渡辺は少し悩んだ表情で
「やっぱいい。悪いし」
そう言ってハンガーを元の場所に引っ掛けた。

確かに出費は痛い。
しかし今日は手持ちも多少ある。

なにより俺は、渡辺に今日のお礼がしたかった。
「別に悪くないよ。ボーナス残ってるし・・・」

渡辺は首を振って
「ううん。まりあちゃんに悪いじゃん」
そういってニコッと笑った。

そして・・・。
「まぁ。気にすんなっ!」
と言って俺の腕を引っ張ってレジに向かった。


332 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/21(土) 00:19:56.39 ID:lFDQQOUo
終戦まりあ記念日の当日、俺はお盆休みを取った。
ちょうど仕事も無かったし好都合だった。

昨日廊下でバイト帰りのまりあに会った。

「お疲れ。まりあ。明日は終戦記念日だね」
わざと意地悪な言い方をしてみた。

「終戦日記念日に生まれた子です。私。あはっ」
軽く自分の誕生日をアピールしてくるあたり
天性の可愛さは才能であると確認させられる。

分かってまんがな。分かってまんがな。

明日は盛大にお祝いしてあげまんがな。

「それでは・・・。フヒヒ・・・。」
油田チックな俺がいた。

俺はハサミで色紙(いろがみ)を短冊に切った。
これであのベタな「繋がったリング」を作ろうとしていた。

社会人にもなって、本気でこんな物が
喜ばれると思っていた自分。

今では恥ずかしい。

油田と渡辺は16時に来る予定だ。
まりあが16時上がりでも間に合うように。

もし19時上がりの場合は
あいつらにもリングの飾りつけを手伝わそう。


343 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/21(土) 00:27:09.39 ID:lFDQQOUo
リングが2m位になったところで15時になった。

まりあにメールを入れなければ。

「まりあって今日バイト上がり何時なの?」
まずはシンプルなメールで攻める。

ここで「いかにもっ!」といったメールは
ネタバレの恐れがあり、命取りだ。

これで早くて1時間後には返信が着ますね。フヒヒ・・・。

しかし5分後には俺の携帯が光った。

ん??油田か??

メールを確認する。あれ?まりあだ・・・。

「きょぅゎぢっかにぃるよヾ(@^▽^@)ノ」

え・・・?

なんで?

なんで実家にいるのよ?

意味が分からない。
だって今日バイトだよね?
今バイト中だよね?

何かの間違いだ。
きっとそうに違いない!

落ち着け俺。
深呼吸だ。
スーハー。スーハー。


361 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/21(土) 00:32:49.57 ID:lFDQQOUo
「今日ってバイトだよね?お盆はバイトだよね?」
焦りの色は微塵も感じられない。
我ながらパーフェクトな文章が完成した。

送信!

すぐに

返信!

「ぅん♪でもきょぅ1にちゎぉ休み(@^▽^@)ゞどしたの??( ̄~ ̄;)」

なななな・・・・なんですとぉぉぉぉぉ!!!!

そうか!俺はここで全てを悟った。

油田は確かこう言った。

「お盆もバイトが入っている」と・・・。

油田のお盆は「8月15日」を指していたが

まりあは「8月15日前後」
いうなれば、世間一般のお盆休み期間を指していたのだ。


387 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/21(土) 00:40:02.07 ID:lFDQQOUo
俺は焦った。
正確にいうと焦りまくった。
どんな返事をしようか?

こっちが勝手に盛り上がってる内容を
匂わせてはいけない。

まりあも責任も感じるだろう。
この際、悪いのは油田1人でいい。

それにこの浮かれ具合を、見透かされるのは恥ずかしすぎる!!

「別になんにもないよ(。 ̄_ ̄。)ノ
ただ、まりあの誕生日ケーキを用意してたからさ(≧∇≦)ノ
帰ってきたら食べようぜ(V^-°)」

よしこれで完璧だ。
生まれて25回目くらいに使った、顔文字のお陰でうまく誤魔化せた。

送信!

2分後

返信!
「ぇーー。。。ごめんなさぃ。。(+_ q ))グスン」

俺は「\(^◇^)OK!」
とだけ返しておいた。

それにしてもだ・・・。

もうすぐ油田がケーキを
渡辺がチキンを買ってやってくる。

今から携帯で止めても手遅れかもしれないな。

みんなで終戦記念日に、チキンを食うのも悪くないな・・・。


408 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/21(土) 00:48:42.97 ID:lFDQQOUo
俺はふと床に転がる色紙のリングを見た。

なぜか笑いが込み上げてくる。

フフフ・・・。

まりにあげる予定だった、ワンピースが入った袋を右手に持つ。

あは・・・あはは・・・。

笑えてくるぜ!俺のバカチクショーが!!

HAHAHA!

左手にはまりあを驚かすために仕入れたクラッカーを持つ。

HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!

あははは・・・あは・・・。

フフフ・・・・。

ぅぅ。。。ぅぅっぅぅ。。。

あれ?なぜだろう・・・?

笑っているはずの俺の目から一筋の汗が流れた・・・。


433 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/21(土) 00:57:59.28 ID:lFDQQOUo
16時丁度インターホンが鳴った。
渡辺だった。

「ごめん。開いてるから勝手に入ってきて・・・」

「お邪魔しまーす」と言って渡辺がリビングに入ってきた。

「先輩に用事があるってウソついちゃった。いいよね。あはは」

「あー。二宮くん。リング作ってるー。幼稚だねー」

「チキン冷めちゃうかな?まりあちゃん何時に帰るって?」

「そうそう。ちゃんとワンピース渡さなきゃだよ。がんばってね」

俺はただリビングにボー然と立ち尽くしていた。

「どうしたの?二宮くん?」

「聞いてくれ。渡辺・・・。実は・・・。」

「いけませんねぇ。いけませんねぇ。これじゃケーキが入りませんよっ!!」
キッチンを見ると俺の家の冷蔵庫を漁っているオタクがいた。

油田テメーーーー!!!インターホンくらい押せんのかっ!!!

それは100歩譲っても
人ん家の冷蔵庫勝手にいじってんじゃねーーぞ!!

「ふぅ・・・。なんとかケーキが収まりましたなぁ。
二宮さん。この麺つゆが邪魔でしたよ?」

この2人を今からシラケさす報告をするのか?俺は!!辛いぜ!!
「2人共ちょっと聞いてくれっ!!」


454 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/21(土) 01:14:45.91 ID:lFDQQOUo
俺の声に2人が固まった。
そして俺の顔をゆっくりと見る。

「今日まりあは来ないっ!!!」

・・・・・・・・・・・・・・・。

オタクと渡辺の表情が固まった。

「まりあはお盆にバイトがあるとは言ってない。
正確にはお盆の【間】にバイトがあると言ったんだ。
したがって・・・。今日は実家に帰った!」

シーーーーーーーーーーン。

もはや恒例となった重い空気だ。
しかし今日はGの効き方がいつもよりきつい。

「そそそ・・・それじゃなんですか?僕に責任があるとでも??」
油田が汗を掻きながら焦っている。

「油田に責任はない!90%しかないっ!」

「俺が俺が悔しいのは、まりあが来ないことじゃないんだ・・・。
俺は自分が残念な気持ちを悟られないように・・・」

油田と渡辺が俺を見つめる。

「顔文字(。 ̄_ ̄。)ノ←こんなのや。(≧∇≦)ノ←こんなのや。(V^-°)←こんなのや。

\(^◇^)←とどめにこんなの。を送った自分が情けないんだ!!」

俺の話を聞き終えると渡辺がそっと近づいてきた。

「元気だして。二宮くん。そんな時もあるよ」


474 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/21(土) 01:31:01.08 ID:lFDQQOUo
俺たち3人はテーブルを囲んでチキンを広げた。
俺の横にはワンピースが入った袋が置かれている。

まりあ。俺やっぱりこれ・・・今日渡したかったよ。

渡辺はそんな俺を気遣ってか
「私もね。プレゼント買ったんだ。明日渡そっかなぁ」
と遠まわしに慰めてくれる。

「ちなみに何を買ったのですか?彩さんは」
油田が興味津々の様子で尋ねる。

「んとね。スリッパ。可愛いやつなんだよ」
そか。渡辺は俺のプレゼントが引き立つように
わざわざ地味目な物を用意してくれたのかも?

「スリッパですかぁ。それはナイスチョイスですねぇ」
油田がガザガザと自分の鞄を探り始めた。

「いやぁ。実はですね。僕もまりあちゃんに
プレゼントをご用意しているのですがぁ・・・」

少し自慢気な油田。
きっと俺たちに見せたくて仕方ないのだ。

「なになに?」
渡辺はのってあげる。
実は俺も少し興味がある・・・。

「いやぁ。本当に大したものではありませんが・・・。アリ伝説DXです」

シーーーーーーーーーーーン。

「袋を空けてお見せ出来ないのが残念です・・・。」

別に見たくない。


501 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/21(土) 01:38:29.39 ID:lFDQQOUo
「そうだ!チキン食べようか!
二宮くんには1番食べやすいモモの部分あげる」
そう言って渡辺はチキンを紙に巻いて俺に持たせてくれた。

渡辺は俺と一緒にaquagirlに行ってくれた。
そしてあのワンピースは
俺の給料ではちょっと手の出しにくい物だと分かっている。

だから渡辺は分かってくれているのだ。
俺が今日という日に賭けていた事を・・・。

よし!俺も明るく飲もう!
油田と渡辺に悪いもん。

しかし一旦落ちてしまった空気を上げるのは
なぜこんなにも困難なのであろう?

がんばってはみるものの
まるでお通夜のように、盛り上がる気配が無かった。


523 名前:二宮 ◆htHkuunP2I[] 投稿日:2008/06/21(土) 01:49:24.68 ID:lFDQQOUo
Happy Birthday  まりあちゃーん♪

・・・

Happy Birthday  まりあちゃーん♪

・・・・

Happy birthday, dear まりあちゃーーーん♪

・・・・・・

Happy birthday to you♪

・・・・・・・・・

渡辺が勢いよくローソクの炎を吹き消す。


シーーーーーーーーーン。

なにこれ?一体?

「さぁさぁ。切り分けましょう!」
油田がケーキ入刀をする。

元々こんなバカな提案をしたのは油田である。

油田と渡辺は明日は忙しいらしい。

そこで主役を差し置いて、少し気は引けるが
まりあの分は残しておいて
ケーキを食べようという提案だ。

それは分かる。仕方ないとも思う。

しかし・・・。
「せめて歌いましょう!我々の歌はきっとまりあちゃんにも届くハズです。」
油田のこの提案。

届かねーーーーーーっよ!!!

そしてまりあと同じ女という安易な発想で
火消し人は渡辺となった。

彼女は最後まで抵抗していた。

板チョコに書かれている
「Happy Birthdayまりあちゃん」の文字が少し物悲しい。

憧れの1人暮らしで隣人に恋した【その5】 



日本一の変人経営者
宗次 徳二
ダイヤモンド社
2009-11-13