397 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/17(火) 22:32:32.26 ID:FgtT13KQ0
第7章 運命の歯車 

俺は真っ暗なオフィスで自分の席に座っていた。 
全て終わったな・・・。 

恐らくクビであろう。 

俺は今回の失敗の損害を考えた。 
万一この仕事が飛でしまった場合 

会社の損害は甚大なものである。 
今までの人件費に加え 
もしかすると代理店に損害賠償を支払わなければならないかも。 

志村の台本もゴミになり 
赤松も会社の信用を失うだろう。


399 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/17(火) 22:33:17.01 ID:FgtT13KQ0
技術スタッフにしてもそうだ。 
撮影をする上での 
今までの準備や打ち合わせは全て無駄なる。 

ライティングに関しては外注スタッフだ。 
スケジュールを押さえてしまった以上 
ギャラは発生する。 

後はスタジオのキャンセル費。衣装代。 
そうそうメイクさんもギャラは発生するな。 

あの代理店は二度とあの美容器具の会社から仕事を取れないかも。 
代理店の人だって自社で激しい吊るし上げを食らうに違いない。 

絶望だ。 

「死んでしまおうかな?」自然とそんな言葉が出てしまう。


401 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/17(火) 22:37:08.91 ID:FgtT13KQ0
俺は呆然と空中を見ながら思った。 

「おふくろの声が・・・聞きたいな」 

気が付くと俺は携帯で実家に電話をしていた。 
こんな時間だもんな。 
おふくろ寝ているよね? 

しかし意外にも電話は2コールほどですぐに繋がった。 

「はい。二宮です」 

2週間ぶりに聞くおふくろの声は妙に優しく 
そして懐かしくさえ思えた。 

「俺・・・だけど・・・」 
震える声を絞り出してやっとそう切り出した。

405 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/17(火) 22:44:07.16 ID:FgtT13KQ0
「光輝かい?どうしたんだい?こんな夜中に」 
おふくろは明らかに動揺していた。 

そりゃそうであろう。こんな時間に暗い声をした 
息子から電話があれば誰だって動揺する。 

「もしもし?もしもし?」 
おふくろの声を聞いて泣きそうになる。 
鼻の付け根の辺りがツンとして痛い。 

「おふくろ・・・ごめんね・・・」 
やっと出た言葉がそれだった。 

バカでアホな息子でごめんね。 

一生懸命育ててくれたのに 
単純作業も出来ない息子になっちゃってごめんね。 

人様に迷惑を掛ける息子になってごめんね。 

自慢の息子になれなくてごめんね。 

俺はとうとう泣き声になってしまった。


407 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/17(火) 22:49:12.74 ID:FgtT13KQ0
おふくろは言った 
「どうしたんだい?話してくれなきゃわからないよ」 

俺は泣きながら母親に伝えた。 
入社たった2週間程度で 
会社に多大な損害を与えてしまったことを。 

俺の話を全て聞き終えたおふくろは 
ゆっくりと言った。 

「そんなことかい?だったら会社を辞めて 
また母さんと2人で暮らせばいいじゃないか。 
母さんの家に戻ってくればいいじゃないか」 

俺は小学校の時以来、口にしていなかった言葉を言った。 

「おかあちゃん・・・・」


415 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/17(火) 23:00:36.38 ID:FgtT13KQ0
俺はふと中学生の時の出来事を思い出していた。 
親父が亡くなったばかりで 
家計が急に切迫された状態になった。 

必死でパートに出ていたおふくろの苦労も知らず 
俺は夜遊びを覚えた。 

そして迎えた俺の誕生日。 
ケーキを買う余裕なんてなかったのかもしれない。 
深夜帰宅するといかにも不味そうなケーキがテーブルに置いてあった。 

おふくろの手作りだった。 

おふくろはケーキなど作ったことは無かったのであろう。 
クリームはグチャグチャで 
上に乗っていた苺は不揃いに並んでいた。 

それでもおふくろは言った。 
優しそうな笑顔で 

「光輝お誕生日おめでとう。ケーキ食べな」


420 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/17(火) 23:05:06.28 ID:FgtT13KQ0
当時の俺は想像を絶するバカだった。 
「こんな不味そうなケーキ食えるか!」 
そう言ってケーキを壁に投げつけた。 

俺も当時ガキだった。 
親父がいた時はちゃんとしたケーキが食えたのに。 
なんでこんなケーキになったんだよ! 

理解はしようとするものの 
家庭の経済的変化は感情が受け付けなかったのである。 

おふくろは床に散らかったケーキを片付けながら 
涙声で言った。 

「貧乏でごめんね・・・」

421 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/17(火) 23:07:52.05 ID:FgtT13KQ0
電話口でおふくろの声が聞こえる。 

「光輝はなにがあっても母さんの息子だよ」 

俺は涙を必死で堪えた。 
そして言った。 

「ごめん。ごめん。本当はそんなに大したミスじゃないんだ 
ちょっと弱気になっただけ。だから心配いらないよ」 

そして電話を切った。 
これ以上おふくろの声を聞いていたら 
また泣いてしまうよ。

436 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/17(火) 23:47:19.62 ID:FgtT13KQ0
それから俺は朝まで自分のデスクでボーッと過ごした。 
朝8時。 
次々と社員が出社してくる。 
この業界で8時に出社してくる人間は大概がロケだ。 
事態を知らない人は気軽に俺に声を掛けてくる。 

「おお。二宮!早いじゃん。おはよう!」 
そして準備を終えると次々にロケへ出動して行った。 

誰の顔もロケに対する意気込みが伺え 
俺は置いてけぼりをくらったような 
惨めさを感じた。 

そんな時、女の声が聞こえた。 
「二宮くん。早いね~。」 
渡辺だった。 

通常は制作部のフロアに上がってくることは無い 
彼女だったが何かしら用事でもあったのだろう。

441 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/17(火) 23:49:35.04 ID:FgtT13KQ0
「二宮くんもロケ?」事情を知らない渡辺の声は明るい。 
「いや・・・」正直答えるのも面倒だった。 

「ちょっとミスってさ。泊まり明け」 
渡辺が不安気な表情で俺の顔を見る。 

「ミスって・・・。どんなミス」 
「取り返しのつかないミス」 

更に深く追求してこようとする渡辺から 
「もう行かないと怒られるよ」と言って俺はトイレへと逃げた。 

9時にもなるとそろそろ社内に活気が出てくる。 
皆はまだ俺のミスを知らない様子だ。 

いや。知っていてあえて無視していているのか? 
余計な事まで考えてしまう。 

そんな時、フロアの入り口から赤松が見えた。 
眉間にシワを寄せ妙に早足で自分のデスクに向かう。 

俺は席を立って赤松の元へ駆け寄った。 
「赤松さんすみません。俺・・・俺・・・・」 
赤松はそんな俺の言葉を遮るように 
「志村に聞いた」とだけ言って電話の受話器を上げた。


447 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/17(火) 23:56:34.08 ID:FgtT13KQ0
電話の相手は例の代理店だった。 
「この度は誠に・・・。はいはい。すぐに伺います」 
俺は赤松の横に立ち胸が締め付けられる思いだった。 

しかし俺には何も出来ない。 
無力な新入社員なのだ。 
電話を切った赤松は俺に 
「ROM。原稿の入ったROM」と言った。 

俺は自分の席に走っていきCD-ROMを取ってきた。 
それを赤松に渡した。 
「お前は会社で待っていろ」そういうと赤松はまた早足に 
会社を出て行く。 

俺と赤松のやり取りに気づいた社員が 
事態に気づき始めた様子だ。 

「何かあったのか?」 

耳を澄ませばそんな声が聞こえてきそうだった。

448 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/17(火) 23:57:15.28 ID:FgtT13KQ0
俺はまた自分のデスクに戻って赤松の帰りを待った。 
針のむしろとはこういう状態なのだろう。 
事態に気づき始めた社員の視線が痛い。 

1時間ほどして赤松が帰ってきた。 
どうなったんだ?代理店はどんな反応を見せたのだ? 

「赤松さん・・・」近づく俺を無視して 
赤松は数人のプロデューサーを集め、会議室に入っていった。 
当然俺が入って行ける空気ではなかった。


449 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/17(火) 23:58:08.18 ID:FgtT13KQ0
30分ほどでプロデューサー連中が 
会議室から出てきた。 

俺は赤松の元に駆け寄った。 
「どうだったんですか?代理店は怒っていますか?」 

赤松はあからさまに不機嫌な表情で 
「まだ分からん」とだけ言った。 

そして「二宮。お前は自宅に帰れ。連絡が来るまで出社せんでいい」 
俺は腰が崩れるような感覚に襲われた。 

撮影まであと3日。今から他のADを立てるのか? 
俺は完全にこの仕事から外されたのだ。 

入社して初仕事での大失態。 
呆然とするしかなかった。


452 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/18(水) 00:07:16.30 ID:FgtT13KQ0
赤松に必要書類を渡して俺はトボトボと会社を出た。 
その瞬間だった。 
ちょうど来社した志村に出くわした。 

いま1番会いたくない人物だった。 
しかし謝らないわけにはいかない。 

「すいませんでした。志村さん」 

精一杯の言葉がそれだった。 
しかし志村は例の目線。 

そうあの汚いものを見るような目で 
俺を一瞥して社内へと消えていった。 

呆れてものも言えないのか? 
それとも話する価値すらないと思われたのだろうか? 

どっちにしろ俺はショックだった。 

自宅のある駅まで電車に揺られる。 
なぜこんな時間に家に帰るってるんだろ?俺。 

消えてしまいたいな・・・。 

志村のあの目を思い出す度にそう思った。


460 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/18(水) 00:14:25.31 ID:Ggb/UlaK0
マンションの近くで油田に会った。 
「あれ?どうしたんですか?こんな時間に」 
油田は午前中に帰ってきた俺を不思議に思ったのであろう。 

「いや。ちょっとね」 
コイツに事情を説明したところで何にもならない。 
「そうそう。マンガありがとうね。今度返しにいくよ」 

油田は少し心配気な表情で 
「それはいつでもいいですけど。顔色悪いですよ」 

エレベーターで3階のフロアへ到着した。 
その時ちょうど302号のドアが開いて 
まりあが出てきた。 

会いたく無い時に限ってやたらと人に会うもんだ。 
そうか。2人共大学へいくのか。 

「おはようございます。あれ顔色悪いですよ?」 
まりあも俺の顔を覗き込んできた。 

余程血の気の失せた表情をしていたのだろう。


462 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/18(水) 00:18:17.81 ID:Ggb/UlaK0
「うん。ちょっとね。風邪気味みたいだから早退」 
そういって無理に笑顔を作った。 

さすがにまりあに対してだけは 
情けない姿を見せれなかった。 

「え・・・。大変じゃないですか?」 
心配してくれるまりあ。 

しかし今は1人なって寝たいんだ。 
「大丈夫だから。マジで」 

そういって俺は自分の部屋へと消えた。 
とにかく眠ろう。 
眠ってなにもかも忘れたいんだ・・・。


464 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/18(水) 00:23:49.78 ID:Ggb/UlaK0
俺はその日夕方まで眠った。 
しかし熟睡は出来なかった。 

今現在、会社で起こっているであろう騒ぎを想像すると 
夢にまで出てくる。 

携帯を見てホッとする。 
どこからも着信は無かった。 

風呂に入ることも食事をすることも全てが面倒だった。 
ただ布団の中で目を瞑っていた。 

夜の8時ごろだった。 
ピンポーンとやたらと大音量のインターホンが鳴った。 

俺は布団のビクッとなった。 
頭の中には「もしや会社の人間!?」それが真っ先に浮かんだ。 
もはや鬱病状態だった。


471 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/18(水) 00:31:28.50 ID:Ggb/UlaK0
恐る恐るインターホンの受話器を取った。 
「はい・・・」 
すると意外な人物の声だった。 

「どうも油田です」 
なぜ油田が? 

しかし会社関係ではないことに安堵した。 
ドアを開けると油田はダンボール箱を抱えていた。 

中には「YAWARA」がびっしりと詰まっている。 

「今日学校でまりあちゃんに聞いたんですけど 
二宮さん風邪だって。 
だから暇持て余しているかなって。 
これ良かったら読んで下さい。」 

俺は油田の心遣いが嬉しかった。 

ご近所付き合いっていいな。 
心底そう思った。 

「ありがとうね。油田くん。助かるわ」 
笑顔でそう言って俺は「YAWARA」を受け取った。


476 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/18(水) 00:37:09.31 ID:Ggb/UlaK0
ついでに読破した「はじめの一歩」を油田に返した。 
「もし具合が悪くなったらいつでも言って下さい」 
そういって油田は自室へと帰っていった。 

俺は思った。 

油田はオタクの趣味が合わないけどいい奴だな。 

俺はまた布団に潜り込んで「YAWARA」を読み始めた。 
昔に読んだマンガであった。妙に懐かしい。 

普段は乱暴だが、心の奥底で柔を愛するおじいちゃんは 
俺の心を和ませてくれた。 

そしてマンガに夢中になることで俺は仕事のことを 
忘れようとしていた。


485 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/18(水) 00:50:29.58 ID:Ggb/UlaK0
次の日俺は昼過ぎに目を覚ました。 

すぐさま携帯を確認してホッとする。 
どこからも着信は無かった。 

携帯はマナーモードにしておいた。 
今の俺の状況では着信音でも心臓が止まりかねない。 

俺はふと親友の顔を思い出した。 

俺には親友と呼べる友達が1人だけいる。 
小学生の時からの幼馴染だ。 

こいつだけはいつも俺のことを親身になって 
考えてくれた。 

俺がグレた時も色メガネで見ることは無く 
普通に接してくれた。 

俺は親友に電話をした。 
久しぶりに声が聞きたくなったのだ。


489 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/18(水) 00:58:25.07 ID:Ggb/UlaK0
「やほー!元気?」 
受話器越しから聞こえてくる声。 
相変わらずだな。 
俺が電話したっていうのに。 

「おー。元気だよー。そっちは相変わらず?」 

「相変わらずさ。フリーターしながら全国を旅してます。」 

こいつは高校卒業後フリーターとなり 
暇を見つけては日本全国を旅している。 

人生気ままが1番。これが奴の口癖だ。


490 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/18(水) 00:58:38.11 ID:Ggb/UlaK0
「どうだい?リーマン生活は?」 
俺はその辺りを適当に濁した。 

「平日の昼に電話してくるなんて映像業界も案外ヒマですね~」 
「バーカ。代休だよ。代休」 
「代休ならおふくろさんの所帰ってやれっての!」 
「まぁその内ね」 

俺達は他愛の無い話で盛り上がった。 
嬉しかった。心が和んだ。 

こんな親友を持てて幸せだと感じた。 

「あ・・・俺そろそろバイト行くわ。」 

「そか。また電話するよ。バイト頑張れよ!悟」 

俺達は再会を約束して電話を切った。


502 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/18(水) 01:08:43.34 ID:Ggb/UlaK0
俺はカップラーメンの簡単な食事を済ませて 
また布団に潜り込んだ。 

油田に借りたYAWARAの続きを読む。 

夕方5時。ピンポーンとインターホンが鳴った。 
またもやビクッとする。 
少し音量を下げれないものか? 
今度調べてみよう。 

「こんばんわ。具合どうですか?」 
声の主は油田だった。 

「ちょっと待ってね。玄関開けるよ」 
油田は心配そうに俺の顔を見る。 

「少し顔色良くなりましたね」 
「おかげさまで」 

「それでですね・・・。もし良かったら今夜 
まりあちゃんの部屋ですき焼きパーティーしませんか?」 

えええええ!!!マジかよ!!??デブ!!!???


506 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/18(水) 01:12:02.49 ID:Ggb/UlaK0
「え・・・。なんで?」 
俺はドキドキしながら聞いてみた。 

「今日も学校でまりあちゃんと会ったんですけど 
二宮さん風邪だし、すき焼きでも食べて元気になってもらおうって」 

「ありがとう。行くわ。マジでありがとう」 
俺は油田に握手しそうな勢いだった。 

「それじゃ6時30分。まりあちゃんの部屋で」 
そういって油田は部屋のドアを閉めかけた。 

そして・・・。ニヤリと笑ってこう言った。 
「僕も初めてなんですよ。彼女の部屋は」 

万一部屋で変態行為に及んだら 
殴ってやろうと思った。 

鏡を見てみる。ヒゲも伸び放題。 
髪もボサボサだ。 
これではダメだ。 

俺は急いで風呂に入った。



516 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/18(水) 01:18:01.37 ID:Ggb/UlaK0
小綺麗に身支度を整えていざ302号室へ。 
6時30分丁度だった。 

まりあの部屋のインターホンを押す。 
なぜかドキドキする。 

すぐに「はーい」というまりあの声が聞こえた。 
「えと。二宮です」 
「ちょっと待って下さいね~」 

すぐにガチャリとドアが開いた。 
髪の毛を束ね 
なんと・・・なんとエプロン姿のまりあが登場した。 
可愛すぎるとはこのことであろう。 

「ようこそ!中へご案内します」 
少しふざけた態度もまた可愛い。 

玄関を入るといかにも女の子といった感じの 
小物が並べられている。 
俺の部屋とは大違いだ。


523 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/18(水) 01:24:23.25 ID:Ggb/UlaK0
それになんかいい香りがする。 
女の子の部屋の香りだ。 

俺はその幸せの香りを肺一杯に吸い込んでいた。 

リビングに入った瞬間。 
急に部屋の臭いが変わった。 

鼻とツンと刺激する酸っぱい臭いとでもいおうか・・・。 

「やぁ。どうもどうも」 
油田が右手を上げていた。 

貴様・・・。約束は6時30分だろうが! 

しかしこの刺激臭は以前どこかで・・・・。 

そうだ!油田の部屋だ。 
油田は異常に足が臭かったことを 
思い出した!


536 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/18(水) 01:32:50.90 ID:Ggb/UlaK0
「油田くんに横にどうぞ!」 
まりあが促してくれる。 
とりあえず腰を下ろす。 

しかし・・・。なぜか妙に腹立たしいシチュエーションだ。 
これだと俺が「油田・まりあカップル」の部屋に 
お呼ばれされた状況ではないか。 

このオタクめ!もうビールまで飲んでやがる。 

まりあは俺にも缶ビールを持ってきてくれた。 
「材料もう少しで切り終わるんで、それでも飲んでいて下さいね」 
そして笑顔。 

いちいち可愛い。 

隣に目をやる。油田が「まぁまぁ。おひとつ」と言いながら 
俺のグラスにビールを注いでいる。 

そして「かんぱ~い」と言ってグラスを高々と掲げた。 

待て。まりあがまだいないだろ!バカ! 
勝手に始めてんじゃねーよ。 

はぁ。コイツさえいなければ・・・。


544 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/18(水) 01:41:56.43 ID:Ggb/UlaK0
まりあがすき焼きの材料をテーブルに並べて宴は開始した。 

俺はまりあにビールを注いであげた。 
「私はまだ19なので。少しで」 
意外とマジメなんですね。 

俺なんて13歳から飲んでいた。 
乾杯の後はまりあがすき焼きを始めた。 
油田は鍋奉行なのか 

「まりあちゃん。野菜はまだだよ」等と 
どうでもいいことをほざいている。 

俺は久しぶりのすき焼きに少しワクワクしていた。 
ウチは貧しかったので、たまのすき焼きも豚肉だったのである。 

牛肉のすき焼きは美味かった。 
お酒も進む。なんだかんだといいつつ 
まりあも結構酒は強そうだった。 

酔いが進むにつれてまりあが饒舌になってきた。 
「私初めて油田くん見たとき、オタクかな?って思ったー。あはは」 
まりあも言いにくいことを平気で言う。 

しかし外れてはいない。油田は正真正銘のオタクである。


548 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/18(水) 01:49:14.21 ID:Ggb/UlaK0
「それは酷いですよ。まりあちゃん」 
酷くねーだろ! 
あの部屋がオタクの部屋でなくて一体なんなんだよ? 

俺はまりあに「新田さんは誕生日いつなの?」と聞いた。 

まりあは酒で頬を赤くしながら 
「まりあでいいですよ。二宮さん年上なんだし」 
確かにそう言った。 

オタクのメガネがキラリと光ったのを見逃さなかった。 
あの光は嫉妬の光だ。 

チャンス!既成事実を作ってしまえ。 
「そうなの。まりあは誕生日いつなの?」 
「8月です。15日。終戦記念日です」 

悔しそうなオタク。奥歯を噛み締めているのが分かる。 
ザマーミロってんだ。


558 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/18(水) 01:59:11.99 ID:Ggb/UlaK0
「二宮さんの部屋って私の所と間取り同じなんですか?」 
まりあが聞いてきた。 

「俺も光輝でいいよ!」すかざすアピール。 
「それじゃ。光輝くんの部屋は間取り同じなの?」 

よし!タメ語にまで変形したぞ。 

光輝くん>油田くん 

立場は逆転したぜ。どうだ油田!? 
ビールを飲み干す油田。 
逆転のチャンスを伺っている様子だ。 

俺は畳み込みに入った。 
「今度部屋見にくる?」 
まりあは 
「えー。いいんですか?明日バイト休みなんで、明日でいいですか?」 

よし!9割方勝利したぜ。 
しかし油田もこのまま引き下がる相手ではなかった。 

「僕も伺いましょう。二宮さんの所」 

ナニ!!意外としぶといではないか。 
「桃鉄持っていきますよ。3人で遊びましょう」 

そういって油田は不適な笑みを 
俺に投げかけてきたのだ。


615 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/18(水) 02:52:05.48 ID:Ggb/UlaK0
時計を見る。もう23時か。 
女の子の部屋だしそろそろ退散しなければ。 
俺は油田に言った。 
「そろそろ帰ろうか?」 
「そうですね・・・。今日のところは」 
油田もこのままでは戦況不利と読んだのだろう。 
仕切り直しをする構えである。 

俺と油田はまりあにお礼を言って部屋を出ようとした。 
「ところで光輝くん。風邪の具合どう?」 
まりあが聞いてきた。 

ドキッっとした。 
なぜなら仮病だからだ。 
「うん。なんか大丈夫そう」 

「それならいいけど・・・。明日仕事だよね?お邪魔していいの?」 
2回目のドキッ。 
「うん。この際ゆっくりしろって。上司が言ってくれたんだ」 
「そうか。それじゃ安心だね。」 

油田が口を挟む 
「いいんですよ。いいんですよ。二宮さんはお偉いさんなんでぇ」 
黙れ!オタク!つまらん親父ギャグを言うな。


620 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/18(水) 02:54:07.03 ID:Ggb/UlaK0
まりあは玄関まで見送ってくれた。 
「それじゃ光輝くん。明日7時にお邪魔するね」 
もう朝の7時でもいいですよ。 

「それじゃ二宮さん。僕は6時にお邪魔しますね」 
え・・・?なんで・・・? 

そんな感じで各々が自室へと戻って行った。 
本当に楽しい夜だった。 

だが俺は自分の立場を決して忘れてはいない。 
俺はケアレスミスで会社に多大な迷惑をかけた。 
それはどうやっても逃げられない社会的責任であった。 

次の日も俺は昼過ぎに目覚めた。 
やっぱり熟睡は出来ていない。 
目を瞑ると赤松の顔や、志村の冷めた目線がどうやっても浮かんでくる。 

俺はコンビニ出掛けた。 
今夜はまりあと油田が遊びに来る。 
飲み物を購入する。 
食事は色々考えた結果ピザを注文することにした。 

とてもじゃないが俺の料理はご馳走できない。


626 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/18(水) 03:03:56.41 ID:Ggb/UlaK0
6時15分油田が来た。 
コイツ。俺の招待(してないけど)は遅れやがって。 
油田は 
「やぁ。どうも。どうも。」といいながら 
大事そうにPS2と桃鉄を抱え上がり込んできた。 

俺のTVにPS2をセットしたところでビールを出してやった。 
しばし油田と雑談。 

7時丁度にまりあがやってきた。 
今日もやっぱり可愛い。 
「おじゃましまーす」 

やっぱり女の子はちゃんと挨拶が出来るね。うんうん。 
「こんばんわ油田くん」 
「やぁ。どうも。どうも。」 
油田の挨拶はいつも同じだ。 

「へぇー。ウチとは左右対称の作りなんだ。なるほどー」 
そういってまりあは室内を見物する。 

「ウチとは全く同じ作りなので、自分の部屋にいるような感じがしますなぁ」 
と油田。 
作りは一緒でも中身は全然違うだろが! 

「綺麗に片付いているね」まりあにそう言われた。 
片付いているというより、物が少ないだけであるが。


630 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/18(水) 03:06:00.55 ID:Ggb/UlaK0
早速ピザを注文して皆で食べた。 
実はすごく楽しかった。 
俺はおふくろと2人の食事だったので 

学生と3人との食事はなんだか新鮮な感じがした。 
食事の後は皆で油田の桃鉄をやった。 

ジャンケンの結果、油田とまりあが同じコントローラーになった。 
俺は油田の手汗が心配であった。 
そんな俺の思いもお構いなしに 
まりあはゲームに熱中していた。 

そんな横顔を見ていると 
まりあはまだまだ子供なのだなと感じてしまう。 

この時、俺の気持ちは既に固まっていた。 

俺はまりあを好きになってしまったんだ。 

俺はまりあとずっと一緒にいたい。 
ずっと大切にしたいんだ。胸が熱くなってくる。 

「まりあちゃんの握ったコントローラー。少し生温かいですね」 
油田だった。


640 名前:二宮 ◆htHkuunP2I [] 投稿日:2008/06/18(水) 03:18:47.69 ID:Ggb/UlaK0
第8章 会社復帰 

結局その日の桃鉄は明け方までとなった。 
徹桃というやつだ。 

それ以降油田はヒマがあれば俺の部屋へ遊びに来る仲となった。 
しかし俺が油田の部屋へ行くことはあまり無かった。 
理由は臭いからである。 

しかしなんだかんだ言っても油田もイイ奴には変わりない。 
マンガも沢山貸してくれた。 

それとは裏腹に俺には大きな不安があった。 

そうだ。あれから1週間。会社からの連絡が一切来ていないのだ。 
あれ程恐れていた会社からの電話なのに 
来ないなら来ないで不安になる。 

もしや俺の知らないところでクビになっているのかも? 
本気でそんなことを考えていた。 

しかしあの事件から10日後。 
とうとう会社から連絡が来たのである。 

赤松からでは無く総務部からの電話であった。 

事件が会社レベルにまで発展していることを認識させる。

憧れの1人暮らしで隣人に恋した【その3】